暗くても明るくても方角なんてわからない。
だけど思ったんだ、東の海はあっちの方向だって。





  軌 跡





毎度の事ながら夜這い、いや、夜這いなんて危ないもんじゃないか。
彼と彼女の逢瀬はそんなものじゃなくて、言い換えるなら夜襲。
襲撃に近い騒ぎになって、昼間の二人と変わらない。


そんなこんなで、今夜もルフィは彼女の見張りに訪れる。
だけどいつもと違うのは、今日も遊ぼうなと声をかけなかったこと。
特に行こうという気がなかったというのが本音だが、急に遊びたくなった。
それに腹も減ったし、未登録[1]と一緒に見張りをすれば夜食にもありつける。



しかしそこには計算外の彼女の姿。


ルフィも男の端くれ、女の涙には弱い。


「な、何だ?どうした?」

訂正、こんな風に泣く未登録[1]の涙に弱い。
こんな風にとは、どうして泣いているかわからない状況のこと。
頭が痛いとか、サンジと喧嘩したとか、目に見える感情が出ていない。

見張り台を覗き込んだルフィは指を引っ掛け帽子を押さえ、いつものように隣に座る。
どうしたどうしたと未登録[1]の頭を撫でてやり、少々お兄さんぶっているらしい。


未登録?」
「うー‥」

グズッと鼻を鳴らして目じりを擦った。

「お、」
「お?」
「おじいー‥」




──‥あ、


『おじい』だ。




ルフィが弱いと思うその涙にもうひとつつけるとしたら、おじいを思って涙する未登録[1]には弱い、というか、どうしようもない。

未登録[1]の思い出の中はサンジであったり、あのレストランであったり。
そして誰よりもゼフで、何よりもゼフなのだ。
きっと今は自分たちもその枠の中に組み込まれているのだろう。
しかし、やはり彼女の中で一番大きいのはおじいと呼ぶ男の存在。


何も言うことができずにそのまま頭を撫でてやる。
こんな時の未登録[1]にはこうするのが一番いい。
こうしてると、気づけば泣き止んでたりすることが多い。
この船の中でそれを知ってるのは自分とサンジくらいかと思うと少し誇らしい。






それでも例えば、あんな風に未登録[1]が泣く理由が自分のことだとしたら、自分を想ってあんな風に泣いてくれることがあったらと時々思う。


それがどんな感情なのか、まだ知らない。


まだ知る必要はない。










「あ」
「ん?」
「雲、取れた」
「んお?」

空を見上げた未登録[1]につられ、同じように見上げる。
雲がかかっていたなんてことは知らないが、綺麗な星空がそこにあった。



あ、


ルフィっ

おう、見た見た


流れた星は細く綺麗な曲線を描いて紺色のカーテンへ消えていった。



未登録
「んー?」
「あっち、東だぞ」
「え?」
「あのレストランの方に星落ちてったな」
「………うそだ」
「うそじゃねェよ」
「うそだよ。ルフィ東なんてわかんないじゃん」
「わかんねェけどあっちが東だ」
「なんで」
「なんとなくだ」

な、と笑う船長に、未登録[1]は訝しげに首を傾げるも、その笑顔に今まで幾度となく励まされてきたから。

「じゃあ、あっち、東ね」
「おう」
「おじいのとこに落ちたんだ」
「そーだ」
「そっか」
「おんなじ星だな」
「……ん」





いつでも気がつけばそばにいる人だ。
背中を押してくれたり、支えてくれたり、撫でてくれたり。

大きなあの手が離れたときに、君の手が、すぐ隣にあった。










おわり。
一日のおわり
DATE / Uncertain ×