アパレルキャットの光合成

 

 

あたしの彼氏は猫なのです。

「怪打ー‥、だって」
「んー」
あったかい日差しを好む男が、ゴロンと。ちょっと、寛ぎすぎですよ、湯舟さん。は見ていた新聞をクルクル巻いてパシッと頭を叩いてみる。
「んー」
「うわ。つまんないよー、その反応」
「オレ、眠ィんだよ」
「………哲郎さん、冷たいね」
「眠いって、」
「安仁屋君カッコいいー!哲郎さんより全然カッコいいんだかんねっ」
ふんっと。そっぽを向いて新聞を広げた。

「安仁屋って、お前」
「何、怪打って。わけわかんないし」
「あー?」
「同じ 『怪』 なら安仁屋君の怪物のがカッコいいもん」
さっきまで隣でホコホコ弁当を食ってた幸せそうな顔はどこへいったのかと。寝転んだままの湯舟は、手を伸ばして腕を握る。
「何よ」
「怒ってんの?」
「何を?」
「………何を?」
「自分でわかんないのに、怒ってんの?なんて聞くんじゃないよっ!」
「喋り方、まる子になってんし」
「うっさい!バカ猫!アホ猫!」
登校の時も、三組の子にデレデレしやがって。の言葉に、あー、そうかと。機嫌の悪いだろう理由に気づいて、苦笑い。

「機嫌直せ。ガムやるから」
「このあたしをガムで釣れるとでも?」
思ったからやってる、と。そんな言葉を飲み込んで。
湯舟はの手の中にガムを握らせた。
「そりゃ、いつもあんなにチヤホヤされることないから浮かれるのはわかるけど」
一生に一度、あるかないかだもんね。は言い、ガムを口の中に放る。
しかし、その言葉が気に入らなかったのか、湯舟哲郎。頭をポリポリかきながら、上体を起こした。

「一生に一度?」
「もっとあるって?」
「バカにすんなっつーの」
見ただろ?今朝の。その言葉を口に出す湯舟は、必要以上に饒舌で。
「オレが本気出せばあんなもん」
「もう絶対キャーキャー言われないと思う」
「この長身に、ナイスなツラ」
「ナイス?」
「それに加えてスポーツもできるとなると」
「できてんの?」
「女の子に放っておかれるわけねーだろ」
「………ふーん」
「しかも最近は、湯舟君可愛いなんて、三年のお姉さまに言われるし」
「へ?」
「このモテモテ具合を見よ」

ハタと顔を上げた湯舟の目には。

屋上に冷たい空気。彼女の冷めた視線。

「………という感じで」
「あっそ。いいのよ。別に。三年のお姉さまね。へーぇ」
そんなもん、聞いたこともないし見たこともなかった。哲郎さんて、実は秘密主義なんですねと。は目を細めて薄く笑う。そして、座ったままの湯舟を無視し、立ち上がった。
「は?ちょ、」
「お昼も終わったことだしー。教室戻るー」
「はっ?寝ねェの?」
「三年のお姉さま呼べば?このクソ猫」
怒っていらっしゃる。彼女殿、怒っていらっしゃいます。そりゃまぁね。彼女の前で他の女のことを言っちゃいけませんよ。(しかも複数形ときた)
焦りつつ、でも体はコンクリートについたままで。湯舟はその腕を引く。

「何?」
「いや、ひ、昼寝」
「だからお姉さま呼べば?」
叶姉妹みたいなお姉さまの猫になっちゃえばいーじゃん。は言い、ブンブンと腕を振り払おうとした。
「だから、さっきのはそーじゃないって」
「そーって何?そーの意味すらわかんない。もういーの。教室行く!」
「わかったわかった。オレも行くから、少し寝てから」
だからここにいてくれと。湯舟は腕を放そうとしない。

「離せ。チンチラ」
「チンチラ?」
「じゃあアメショ?」
「猫?」
「叶姉妹に飼われてそうな」
「………オレは雑種でいーっつーの」
お前に飼われてんだから。言われたはきょとんとして。
しかし、少し考えたように言葉を口に。
「あたしが庶民ってこと?」
「セレブじゃねーじゃん」
「うわ、むっかつく!」
「んー」
「んーじゃないよ!バカ猫!寝るな!」
昨日、大会で怪打を放った男はお疲れのようで。
がどんなに騒いでも、瞳を閉じたままでした。

もう小暑だという空の下。光合成する雑種猫と隣に座る飼い主は、この後の授業を、すっかり忘れてしまっていたとか。

 

 


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03/07/10  ×