ネバーネバーギブアップ

 

 

指が痛ェ。やたら痛みやがる。
黙ってると、腕全部の血液の流れがわかるぐらい。
音が聞こえる。

「クソッ、」





バンッ、

「っ、てーな!」
「クソって何なの?あたしがいるのにクソ?」
枕を掴み投げたのは。彼女でもなけりゃ、多分友だちでもない。幼馴染という曖昧な関係の、大事な女。
「塞ぎ込んじゃって。キモチワルイ」
「あァ?テメ、それが怪我人に向かって言う言葉か!」
「キモチワルイからキモチワルイって言ったんじゃん!」
黙ってる智って気持ち悪いの。ありえないほど失礼な物言いに、若菜の額には青筋。
「ベラベラ喋って笑える気分じゃねーんだよ」
「あっそ。暗い子だもんね」
「指が痛ェんだよ」


指が痛ェんだ。
試合中、骨折した指が痛い。

何がこんなに痛いのかわかんねェ。動かさなきゃ痛くねェって。
そー思ってても。やけに痛ェ。ズキズキ、どくどく。音が聞こえてきて。
折れた骨の間から、何か菌が入ってるんじゃないかって。腐ってくんじゃねェかって。そんな気さえ起こってくる。
その痛さが、オレの考えを後ろ向きにしてる。



「痛いわけないじゃん」
「痛ェよ」
「踏んだら痛いだろうね」
「普通にしてても痛ェ」
「そんなわけないでしょ。足骨折してる人は松葉杖で歩けるんだよ?」
「うっせーな。痛ェもんは痛ェんだよ」
顔を背け、指ばかりを気にする若菜に、は呟いた。女々しい感じだと。聞こえてきた言葉に頭を上げ、声を荒げる。
「お前にはオレの痛みなんてわかんねーだろっ」


そこに感じ取れるのは、痛み。
大きな痛み。

でも、彼の言う痛みじゃないんだ。


「………痛いのはわかるよ」
でもさ、と。しゃがみ込んで覗き込む。

「指が、」

痛いんじゃないんだよね。言った顔は至極真剣で。その目も真剣で。

「指だよ」
「うそ」
「うそじゃねぇ」
「うそばっか言うな」
ベチッと叩かれても無反応の若菜。そして、彼女は言う、一言だけ。

「わかってるから」







こんな時、凄いと思う。こいつは呆れるくらい凄いと思う。
何も言わないオレの。何を言っていいのかわからないオレの。
言いたくて、でも、言えないことってのが。
こいつには、全部伝わってる気がする。





「バカ野郎」
「野郎じゃないよ」
女だよ、と。和ませるような苦笑い。
「明日、応援行くね」
「出れねーよ」
「予期せぬ出来事で」
「縁起でもねーこと言うな」
「あはははっ」
そーゆー方が智哉らしい。は言い、さっき叩いた箇所を撫でてあげた。
「指が痛ェから、悪い方に考えんだよな」
「んー?いやー?」
「あ?」
「悪いほうに考えるから、指が痛く感じるんだよ」
「………逆?」
「そう、逆。例えばね、」
明日、と彼女は口にする。
「平塚君の代走になって、智哉が盗塁とかバシバシ決めて」
そんでね、ホームに戻って逆転、とかどーなの?良いほうに考えれば、指なんて痛くなくなるでしょ?笑って言うにつられ、若菜も思わず、笑ってしまった。
「お前そりゃ、………良い方に考えすぎだろ」
しかも平塚かよ、と。





彼女の都合よすぎる考えに。
自分の都合よすぎる考えをのせてみた。

あぁこいつは、オレがどん底にいても、這い上がれって声をかけてくれる。
どんなにこいつに力があっても。オレに手を貸すことはしない。

だけど、

諦めかけたら、一番に声をかけてくれる。最後までオレを見てる。
だからオレは、最後までやらなきゃなんねェんだ。
こいつのために、自分のために。

「なァ、」
「んーあ?」
「お前、明日来いよ」
「行くって言ったじゃん」


この曖昧な関係を、埋めるために。

 

 


こんな人がそばにいたらいいのに。
03/07/10  ×