男前度とチャリンコ道

 

 

逆だろ、逆、なんて思った。

「坂が見えて参りましたね。お嬢さん」

うわ、マジだ。

「そ、そうですわね」
後ろの声に苛立ちを覚えながら深呼吸。そんでもって、努めて可愛い声を。
「あーっちゃん」
語尾にハートがついてるの、おわかりになりますか?
「きっしょいなぁ」
「そんなこと言わんとー、代わって?」
「代わるくらいやったら、最初からジャンケンなんてしてへん」
「ええやろ?男やろ?」
チャンはオレなんかより、ものごっつ男前やで?」
「………駅着いたら殴ったるかんな」

数分前、学校の帰り道で同じクラスのツッチーに会いました。出身中学も一緒なので、そこそこ仲良しです。
おっと、あれは何だ?的な勢いづいて。鍵のかかっていないチャリンコを拝借。(真似しちゃダメよ!)憧れるじゃないですか。帰り道、自転車で送っていってもらう感じ。こう、後ろに乗ってね、青春感じてね。
まさかジャンケン負けで、自分がこぐとは思わなかったもの。

「物騒やなー。女の子がそんなん言うたらあかんよ?」
「男前言うたんどこのどいつや」
ブチブチ言いながらも。そうね、あたしは男前。元来勝気な性格でクラスの男ども総なめだわ。
「ツッチー」
「おん?」
「ちゃんと掴まっとき」
「しびれんなァ、男前」
なめんな、脚力!そんなわけのわからない言葉を叫び、坂へと挑む。

思わず立ちこぎ。何なの、マジで。
ふくらはぎが痛いー!!

ギィギィこいでて、やっとこ坂越え。

「ありえないわ。ありえない」
「ナイス脚力。ミス脚力」
「嬉しくないし」
そのまま、坂を下る体勢に。
「この先は気分高揚」
「えらい綺麗にまとめよんね、お兄さん」
「気の持ちよう」
「よっしゃ、行くぜ。無限大の彼方へ!」
確かに坂道、下りは最高に気持ちいい。
今まで頑張った分(上り坂)、後半はいいことが待っている(下り坂)。



………?


………あれー?




「ぶっちゃけていい?」
「あ?」
「ブレーキ利かない」

………何か。

「何か言え」
「………うお。一瞬寝てたわ」
「寝んな」
「変な夢みたー。チャンがブレーキなんたらって」
「ブレーキ利かない!」
事実なんだけど!と両手をスカスカ。一生懸命かけるけど、無意味な動作。
「アホ言うな!」
「アホ?あんたがアホやん!」
「ブレーキ利かんのはオレの所為ちゃうやろっ」
「あんたの所為や!止めろ!」
「無茶言うなー‥」








バキバキバキッ‥


Q.何の音?
A.……………





「あー‥」
「恐っ、も、恐っ、」


A.植え込みに突っ込んだ音。







「平気かー?」
「大丈、ぶっ、……ツッチーっ?」
下敷きになる男を見て。あぁ、あんまり体痛くないわ。じゃなくて。
「うわ、ゴメ、ありが、……ツッチー!平気っ?」
「平気やから。どいて」
「ごめーん!わー、もう!」
まさか庇ってくれるなんて。
「ぎゃあ!血ぃ出てる!ツッチー!血が出てる!」
「あー?掠り傷や。お前平気なん?」
「全然!平気にもほどがあるわ!ツッチー‥!」
「何やねん。平気や言うてるやろ。泣くなや」
「いや、泣いてはないから」
「女やったら泣けっちゅーねん」
「矛盾やね」
そんなこと言いながらも、目がいくのはその傷なのよ。あぁ、チャリはガードレール直撃じゃないか。
「おーおー。可哀想になー」
立ち上がって膝を払った。自転車を見てため息。
「置いてあったんやのーて、捨ててあったんやな」
騙された、と独り言。
「ね、ホンマ、平気?」
「平気やて。シツコイなー。ハゲ」
「ハゲ違うわ。………あ、バンソーコーある!」
「おぉ。くれくれ。制服に血ぃつく」
ガサガサと鞄の中からバンソーコー一枚。
「………クマか」
「プーや。プー」
「恥ずかしいなー、コレ」
「しゃーないやろ。コレしかないの」
笑える。肘にプーの絆創膏張ってる男。

「でもま、」
「あん?」
「バンソーコー持ってるとこは女の子やなァ」
「………当たり前じゃ」
「はははっ」
やっぱオレがこぐべきやったな、と。袋を持って歩き出した。袋からはバッシュが見えて。そのバッシュを見ながら後を追う。
「次はお前が後ろな」
「次もあんの?」
「バンソーコー持った女の子のための後ろやけどな」
「………しゃーないなー。次はキティやで?」
「ネコか」

男前から、女の子へ。これは昇格なのか?
でもとりあえず、庇ってくれたあんたはあたしより男前やったけどね。

 

 


チャリンコ暴走族。
03/05/07  ×