| ディフェンス強化週間 |
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土屋淳思春期、守りを固めようではないか。 −−土屋淳の唇を奪え−− 数日前、彼の仲間内で挑戦者を募集したところ、一人の少女が名乗りを上げた。 、兼ねてから彼に想いを寄せる少女である。 そのことは学校の殆どが周知の事実。当の本人、土屋淳も知っている事実だ。 「ちょー待て!じゃ洒落で済まされへんやろ」 「そこがおもろいとこやな」 「ちなみに、殆どが奪われる方に乗ってる口や」 「お前ら、人おもちゃにしくさって」 「奪えない派は大穴」 「何てったってー」 「お前も満更ちゃうもんな?」 ぶっちゃけた話、土屋淳の想い人は、その人。 しかし、いつもいつも好意を表面的に表すのはの方で、彼は戸惑い逃げ惑うばかり。素直じゃないとかそーいうことではなくて、彼にしたら、ちょっとしたプライドの問題でもあった。仲間内のほぼ全員、あぁ、を除いた全員ということになるが、ほぼ全員それを知っている。 ので、今回の賭け比はそーゆーことになっているらしい。 「冗談‥」 「あ?」 「お前ら、泡ァ吹かせたる」 「お、強気やな」 「鉄壁のディフェンス、なめんなよ」 バスケ部主将・土屋淳、いきます。 それが一週間前の話。ちょろいもんで、実は今日がその期日である。ここ一週間、との接触を避け、奪われるに賭けてる側のあいつらの言葉に耳を塞いだ。 所用で体育館が使えない今日は部活がない。しかもその体育館まで探しに来るなどという阿呆はいないだろうと、淳は体育館にある音響室に潜んでいた。 「阿呆やなー、あいつら」 ふふん、と。鞄から出したる某ヤング青年誌。グラビアアイドルの肢体を眺めながら、時をやり過ごそうという魂胆。今頃あいつら、必死で構内探しとるやろなー、淳は椅子に腰掛け、空いた手を頭の下に。 下に置こうとした、 「あんたワンパターンやな」 「!」 腕を掴まれた。 「お、お前、」 「やっほー。見つけちゃったー。あはは−」 時の人、参上。 「お、お前、ちょ、」 「あー?あぁ、引くな引くな。何もせぇへんから」 「あぁん?」 「襲わんからそんな引くな言うてん」 通常の男女だったら全く逆の会話だ。隣の椅子に腰掛け、はケタケタ笑う。 「キスなん、する気ないから」 「あァ?」 「何?して欲しいん?」 「アホ言うな」 「せやろ?」 外出るとあいつらうるさいからここ隠れに来ただけや、用意周到、の手にはコアラ型のチョコクッキー。お一つ如何?は淳にそれを向ける。遠慮なく、淳はチョコを頬張った。 「あー、ごめんね、淳」 「あ?」 「いや、最初冗談のつもりやってんけど、」 「あー、あぁ‥」 話大っきなって、気づいたらこんなんやろ?あたしも正直焦ってる、は苦笑いで肩を落とす。 そう言えばこのゲームが始まってから一週間、外野は何のかんのと騒ぎ立てていたがと面と向き合ったのは今日が初めてではないだろうか。 「ゲームでなー、キスなんかな、」 そんなんなーと、首を垂れた。 「……そやな……」 思えば、こいつとは付き合いが長い。ゲームでキスできるような、そんな女じゃない。わかっていたはずだと思う自分、自然と笑いがこみ上げてきた。 「制限時間までー、あとちょっと」 「お前、キスしたとかあいつらに嘘つくなよ?」 「そんなんしたって利益ないわ。賭けも乗ってへんし」 「そやろな」 頷く淳を見て、は微笑む。 「あ?」 「んー?……な、淳、」 「お、おう?」 「これ、終わったら、また、」 あんたのこと、追っかけてもいいかな、気まずそうに顔を伏せた。 「あんま淳に会わんようにしててん」 「オレも、やな。今週は」 「調子狂う。あんたの顔見ぃひんとな」 「そーか?」 「せやから、また、追わせてな」 「‥」 「あんたがあたしのこと嫌ってても、それはしゃーないねんけど、」 「は?」 「でもあたしには追うくらいしかでけへんのよ」 「待て待て」 いつオレがお前のこと嫌いって?淳は言い、の顔を覗き込もうとする。 しかしそれをフイと背けたは声を震わせ、いつも付き合ってくれてありがとうね、聞こえるそれに涙声が混じってると言っても過言ではないと思った。 「お、おい、」 「あんたと騒いでられるだけで、本当は、嬉しい、から‥」 「おい、」 「もうちょっとだけ、付き合ったって?」 「あのな、」 腕を引く。 「っ、」 瞳に涙を溜めたその顔が、困ったようなその顔が、彼を刺激した。 「……あ、あつ、」 「嫌いやない」 「……へ?」 「そんなん、オレ、言うてへんやろ」 近づいた距離の所為だ。 それと、小さな赤い唇。引き寄せられる、引力。 キスは、短時間。 「っ、」 「あ、わ、、あの、」 「キス、……してもーた」 「あ?あー‥」 「あたしの勝ちや」 は? 「………何、やと?」 ケロッとした表情で淳に目を向ける。 「あたしの勝ちやんな」 「おま、」 淳の中で、何かが切れた。 「ざけんなっ!お前、今まであんなん言うとったやろ!」 「はぁ?あんなん?何?知らん知らん」 「こんの、」 「いやー、最後に狙い定めて正解やったわー」 「まさか最初からそのつもりで、」 「当たり前やろ。勝負の世界は厳しいんやで?」 笑ったは椅子から立ち上がり、報告報告、淳は腕を掴み、お前やり方汚ぇと。 「ゲームでキス、したないんと違ったんか?」 「したないよ?そんなん」 「せやったら、」 「淳は別や」 「……あ?」 少し冷静になれば、少し彼女が震えているのがわかった。頬が上気しているのも見て取れる。思わず腕の力を緩めたが、彼女は払いのけようとしない。 「……あつしやったら、ゲームでもえぇから、したかってんもん‥」 さっきの全てを彼女の演技だと言えなくなったのは、その表情がどうしても嘘だとは思えなかったから。もしそれが彼女の勇気だとしたならば、それを汲み取りたい。だけど、騙されたと思ったこっちの気持ちはどうなる。 「」 「……わ、わかったよ。言わない、……キス、してない」 「そやない」 「じゃあ、」 「お前、ほんまにオレのこと好きなん?」 「っ、」 至極近い場所に彼の顔があった。息を呑む音が聞こえそうな、いや、聞こえてるだろう。 「なぁ」 「すっ、好きやっ」 それでも気丈に振舞うのは元来の性格の所為。 「そーか」 土屋は思う。バスケ部主将、オレはディフェンス得意やったか?違うやろ、オレが得意なんは攻撃、‥オフェンスや。 「内緒にしとこか?」 「な、何、」 「こーいうこと」 焦らすように誘った唇は、再度小さな唇を覆った。 「……っ、」 鉄壁のディフェンスは、あの表情で脆くも崩れ去った。攻撃をしかけたらこの勝負自体は負け勝負になると、それはわかってたこと。 だけど、それを180度ひっくり返す方法が一つだけ。 「……、」 「……な、何で……」 「内緒にしとこな?」 「……内緒?」 「オレと、お前だけの、……あかんか?」 攻撃は、時に、最大の防御に為り得る。 −−土屋淳の唇を奪え−− 勝者は土屋淳、つまりはその唇は奪われなかったという結果報告。 だがしかし、三日後に二人がつき合いだしたという事実が、賭け敗者たちの疑念を高めたのは言うまでもない。
関西弁は長くなるとダメなことが判明しました。
04/02/05 × |