マイノリティエゴイズム

 

 

「………ジェシー?」
「は?」
頭の悪そうな男がいた。

ジェシーという何とも外国的な名前を呟かれた後、その頭の悪そうな男の周りにいた、これまた頭の悪そうな男たち。彼らに腕や手を掴まれ、神輿の要領で担がれた。

池袋は何度か来たことがある。だけど西口で友だちと待ち合わせをしたのは初めてだった。毎回賑わいのある東口方面で遊んでいるから、西口なんて異世界だ。
そんな説明、さっきまでの自分だったら多少大袈裟かとも思える。

さっきまでの、だったら。


「嫌だ!何なの!ちょっ‥、」
まさに異世界だった。彼女の説明は間違ってない、的を得てる。黄色い男たちが拉致ろうとしてる、何でだ。先頭だってるあの一番バカそうな男がリーダーなのだろう。
「あんた!ねぇ!下ろしなさいよ!おいコラ!」
言ってみる。喧々囂々に叫んでみる。周囲は見て見ぬふり、日本人は冷たい。
「下ろせ!」
ありったけの声で叫んだら男は足を止めた、ふわっと。そして振り向くと、担がれてるの方までやってきた。少しだけ目線を上げ、人懐こそうな顔でにーっと微笑む。

犬か、こいつ。大型犬を想像させる笑顔。

「あんたじゃないんだけどー」
「は?」
「キングでしょ」
「は?」
「キーンーグー。オーケー?ジェシー」

いやジェシーって何。

「だからジェシ、」
キングと名乗った男は両手を高めに広げ、笑みを配ると落としていく。を担いでいた男たちは、合わせるようにを下ろした。
駅から数少し離れたそこはちょっとした広場。

「どーしたの。ご立腹?ジェシー」
「ジェシーじゃないんだって。てゆーか何?」
「うーん?」
何言ってるんだとでも言いたそうな表情だ。そりゃこっちの表情だと言いたかったけど口を噤む。そして周囲を注意深く観察、駅までの道を確かめた。しかし一歩踏み出せば、周りの男たちも一歩行動を見せる。は思わず後ず去った。
「………何、ねぇ……」
どうやら自分と話をする男は目の前のこいつだけらしい。周りの男たちはこいつの思い通りに動く、らしい。
「ジェシー」
「だ、からっ、」
声が上ずる。数人の正体不明な男たちに囲まれ、恐くないわけがない。頭に浮かぶのが婦女暴行とか、押し切り強盗とかってニュース。
自分のその声に、恐怖心が煽られた。


「……んー‥」
押し黙って俯いたを見、そいつは声を上げる。

「そんじゃー、ゲラーゥ」

げらう?

「ちょっとージェシーと二人でお話しまーす」
しっし、の要領で両手を振ると、男たちがはけていった。
はけたというか、きっと話し声が届かないだろう範囲に散っただけで、もしもが逃げたり、キングという男が大声を上げればわかる距離。

は俯いたまま、目だけ向ける。するとキングは覗き込むように顔を近づけ、また笑った。

「アンドウタカシ」

はっきり口を動かすそれは、まるで幼稚園児に言うみたいに。

「え?」
「安藤タカシ。ジェシー?」
「……ッ、……」

「?」
「君はジェシーなんだよ」
「は?」
「俺はタカシ、キング」
君はジェシーで、アンダスタン?髪を撫でる、いい子いい子、ポンポンと。
「ジェシー‥?」
この人はアンドウタカシという人間で、キングと呼ばれている。そういうことなのだろうか。だとすると、私はで、ジェシーは、……あだ名?彼のつけたジェシーというあだ名を持つことになったと、そう言いたいのか。

いやだから、それは何でなの?


首を傾げたと同時、二つの着信音が響いた。
それは全く同じタイミングで、とタカシの携帯が鳴る。顔を見合わせて、タカシはどうぞ出て下さいという仕草をした。そして自分も携帯を見つめ、ボタンを押して耳元へ上げる。も携帯を見て、受話ボタンを押した。


?」

「あーぁ、マコちゃーん」

「今?えっと、あの、うん、」

「ボゥリング?ノリノリ〜」

「すぐ行く。じゃ、うん、ゴメンゴメン」

「イェッス。ほんじゃねー」

電話を切るタイミングまで同じ。切るボタンを押して、は顔を上げる。

「ボーリング行く?」
「友だち待ってるから‥」
「残念」
「そ、それじゃ」
「あー、
手を掴まれて、逃げられない状況を作られた。
「な、何?」
「ブクロはホーム?」
「……違う、けど」
「それも残念。でもノープロブレムよ、俺に任せて」
「任せて?」
「来週にはブクロがホームになってるよ」
明日の約束をしよう、タカシは言ってキスを落とす。何の前触れもなく、屈んで覗き込んで、小さなキスを唇に落とした。

「………っ、‥?」

鈍く反応して体を引くと、例の大型犬並笑顔。
「明日もブクロおいで」
「………、っ、何でっ‥」
「君がジェシーで俺がキングだから」
腰にかかってたキャップをの頭に乗せる。帽子のツバに手を伸ばせば、掴まれた手。
「でも、二人の時はって呼ぶし」
それで勘弁してねジェシー、歌うように笑ってパチンと指を鳴らした。
呼応して黄色い彼らが集まってくる。タカシはの背に手を添えて、まだ鼻歌交じりだ。

「ジェシーと別行動〜」
一言言い、逆人質と化した帽子をの頭に深くかぶせ、それじゃあまた明日、オーバーに腰を屈めて恭しく挨拶をする。
そして背を向けると、広場の出口へ歩いていった。

彼が歩けば、黄色いあいつらもあとに続く。アヒルみたいだとか悠長に思いながら、それを見送る



ふっと我に返れば先ほどの電話が頭を掠めた。が駅で待っている。
今日自分は彼女と会うためにここへ来たのであって、ジェシーなどというあだ名をつけられに来たわけではないのだ。
帽子から男性ものの整髪料が香る。不思議と嫌悪は感じない。


アンドウタカシは、

キングは、

明日ここで彼女を待つのだろうか。



は来ない。それは、彼女自身の出した答え。
その答えを正解とするか不正解とするか。少なくとも、あと10時間以上は考え直す時間がある。不正解の言い訳は、一つ用意できている。
は帽子を押さえて、待ち合わせの駅に急いだ。

 

 


タカシこんなんだし黄色だし、原作じゃなくてドラマ寄りです。
04/06/23  ×