落ち葉ひろいと同じ

 

 

あんたあんなのと一緒にいて楽しいの?ミイの言葉に首を傾げる。ミイは楽しくないの?は質問を返した。
「笑っちゃうわ、笑っちゃう。つまんなーい」
「そうかな。楽しいよ、あたしは」
「だってあいつ喋んないじゃん」
「まぁ、喋んないけど」
「息が詰まるったら!まーだスニフと一緒にいた方がマシだわ」
「あのねぇ、それでもお姉ちゃん?」
「フン。あたしはそんなの一度も思ったことないわよ」

女の子同士でのお喋りは時間を忘れてしまうものです。
お茶を始めたのはお昼だったのに、もうおやつの時間を過ぎました。
テーブルの上にはレアチーズタルトと紅茶にブルーベリー。そのレアチーズタルト、ホールであったはずなのにもう残りは3分の1。ムーミンママの焼いたチーズタルトが美味しすぎるからいけないのだと、止まらない手を美味しいタルトの所為にして、は口を動かす。

さて、今日の話の対象となっているのはスナフキン。

スナフキンはミイの異父弟。
小柄なミイがお姉さんというのはちょっと驚きですが、それは事実。

「だいたい似たとこすらないわ」
「えぇー、似てるよ。鼻の辺りとか」
そう、鼻の辺りとか目下とか、はミイの鼻を指差し小首を傾げた。じーっと見ながら少しずつ頬を染めていく。そんな様子を見て、フンッと面白くなさそうなミイ。
「あたしを見て顔を赤らめないで欲しいわね」
全く面白くないわ、歯をカチカチさせて言った。

はミイの友人。少し前にムーミン谷に移住してきたトロールの一人。
ミイの悪戯に屈しない精神とミイの早口話を最後まで聞く姿勢。そんな彼女が気に入って、ミイはよくお茶を共にする。
気に入ってはいるのだが、ここ最近専ら口にするのはスナフキンのことばかり。恋慕話なんてミイには大して興味ある事柄ではない。しかしは、だってミイしか聞いてくれる人いないじゃんと捲くし立てる。

「とにかく!口数が少なくて面白くないわ、アイツは」
「それがいいの。それがー!」
「静かすぎるでしょーよ。二人でいたら発狂しちゃう」
「だからー、静かさっていう音を奏でてるんだって!」

静かさという音楽。

「それもういい加減聞き飽、」
聞き飽きたと言おうとした彼女を遮るかのように。
「落ち葉の道を二人で歩いたあの日にね」
ずぐんと身を乗り出し、テーブル越しだがミイとの距離を縮めた。
ミイがもう五回は聞かされてる話。がスナフキンに好意を持ち始めたきっかけとなった話。





それはムーミン谷の秋の日。

落ち葉舞い散る道を二人で歩いていたという。は当時移住してきたばかりで、スナフキンとは特に仲良しではなかった。ムーミンママに頼まれて、ムーミンを探していた途中で彼と会ったらしいのだ。
寡黙な男だというのは彼女も感じていたことで、初めて顔を合わせた日でさえ、彼は頭を下げただけだった。
舞い落ちる葉を見ながら、は考えていた。ムーミンを一緒に探してくれるというスナフキン。隣を歩いているが、さっきから一言も言葉を発していない。元来気疲れな性格を持ち合わせてるは、つまらないのかと気を遣う。

意を決して、口を開いて、

『静かだね』

それだけ言って相手の様子を覗き見た。

スナフキンはチラッとを見てから、舞い散る葉に視線を注ぐ。返答を待ったがそれはなく、は一層喋れなくなる。
サクサクと進むにつれ、湖が見えた。そして彼のにらんだ通り、湖の畔にムーミンはいた。スニフと一緒に釣りを楽しんでいたらしい。

『いたーっ!………あ、ありがとう、スナフキン』

喋らなくてもお礼は言わねばならぬ。感謝の意を表すのには、まず第一にこの言葉だ。

すると、

『静かさという音楽を奏でるんだよ』

スナフキンは言う。

『へ?』
『落ち葉を踏む音、静かだからある音楽さ』
その言葉に、キョトンとはスナフキンを見た。するとスナフキンはムーミンたちのいる方へと足を向け、気づいたようにはその後ろ姿を追いかける。

あぁ、彼はただ喋らないわけじゃない。

思った。

沈黙を楽しんでいるんだと。





「あたしにはわかんないわ。変なきっかけ変なきっかけ」
「わかんなくてもいいの。別に」
「フンッ。あんたもう、その話やめなさいよね」
「何で?綺麗な思い出なんだってば」
「覚えるほど聞かされても面白くもなんともないったら」
「だからー、ミイしか聞いてくれる人、」
「本人に話せばいいのよ。アイツに」
テーブルに着いた肘、から伸びる腕の先の指。が、差してた、の後ろの方。振り向けば、スニフやムーミンと一緒にこちらへやってくるスナフキン。
「話してごらんなさいな、綺麗な思い出とやらを」
スナフキンなら聞くでしょ、何度だって。ミイは最後の一切れ、レアチーズタルトを口に含んだ。あぁ、ずるい!そんなことを言いつつ、目はしっかりスナフキンに。
「あんたの話聞いたんだからちょーどいいでしょ」
「ちょーどよくないよ!ずるいよ!」
「アドバイスしてやったんだからちょーどいいじゃない!」
ぐぐっと紅茶を飲み干して、ピヨンと椅子の上から降りる。
「それじゃ、あたしは行くわ」
「えぇー!スナフキンこっちに来るまで一緒にいてよ!」
「嫌だよ。あぁ、もうこんな時間。ミムラがあたしを探し出すわ」
「うそばっかー!」
「いい加減面倒な話聞かされるより、どうにかなってちょーだい」
あたしにした話をただすりゃあいいの、それじゃーねと、ミイはパタパタ小柄な体を揺らして走っていった。

残されたはその姿を見送りながら。スナフキンたちの傍らをパタパタ走るそれを見送りながら。彼らがこちらまで来るちょっとの時間、頭を悩ませ頬を赤らめる。

さて、どうしようか。

あたし、スナフキンといると沈黙が楽しいの、まずはそこから始めよう。

 

 


スナフキンがすっごく好きになっちゃった。
04/06/03  ×