| ひとりでできるもん |
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くそう、何であたしがこんな、 放課後の調理室、一人食器磨きをする少女。 幽霊調理部員、、2年4組。 久しぶりに部活に顔を出してみた。顔を出したというか食べ物を拝借しに来たというか。もともと、何でもいいやと入った部活。高校入学当初、中学時代仲の良かった友人と共に入部。互いに付き合う友だちも違ってきて、は幽霊部員となった。副部長の彼女は、活動に参加もしないで食べ物拝借に来るを笑って受け入れる素敵な女だ。だから幽霊部員でも調理部のみなさんは優しい。 ただ一人、顧問を除いては。 運が悪かった。普段は部員だけでサコサコ調理に励む調理部。こんにちはー、今日はシフォンケーキって聞いたんだけどーなどと。意気揚々と調理室に入った。目に入って来たのは顧問の先生だった。言ったでしょう、運が悪かったって。 そして今に至る。 「あんのクソばばぁ、」 脳裏に横切るのは顧問の先生、家庭科教師。ただでさえ授業の成績は悪く、部活に出ていない。あの女は笑った、久しぶりじゃないさん。幽霊と化した女を食器洗い役に任命(それも端の棚から)。 ガシャガシャと端から洗っているうちにやっと三番目の棚。皿類だけでいいと言われたのでコップを洗う気はないが、三番目の皿はあと何枚あるんだ、一体。 ホワイトボードの上の時計、時刻は七時を回った。 「クイックル〜クイックル〜」 歌でも歌ってないとやってらんない。食器が綺麗になるのはまぁ楽しいとしよう。家でもしない皿洗いをあたしがやってるのは快挙だ。 「何で今日に限っていんのかなぁ」 「誰が?」 「調理部顧問」 「部活ならいるでしょ」 「いつもはいないんだけ、……ど‥?」 何で独り言が会話になってるんだ。は頭を上げてドアの方に目を向ける。 「うわ」 「うわって」 「何してんの仙道」 同じクラスの仙道彰。『わーきゃー』モンのバスケ部員。 現在友だち以上恋人未満な関係、とでも申しましょうか。 「真面目に部員してんじゃん」 「運が悪かったの」 本当ならシフォンケーキ食べて帰ってたのに、ブツブツ呟きながら視線はもう手元のシンクに注がれた。視線はそのままの状態では口に出す、あんた部活どーしたの。 「七時終了だから。うちの部は」 「コッシーとか遅くまでやってんじゃん」 「越野は努力家だからねぇ」 ふーん、聞いてるような聞いてないような返事をひとつ。足音が響いて近づいて斜め後ろに気配を感じる。大きいからよくわかる、何となく威圧感。 「部活出ないからだって」 「出なきゃ」 「仙道も似たようなもんでしょ」 「遅刻とサボりはあるけど〜、オレ幽霊じゃないし」 「へぇへぇ」 「で?一人でやってんの?」 「まーね」 「調理部の子と仲良くなかったっけ?」 「いいよ。みんな優しさ爆発」 「手伝ってもらえばいいのに」 「悪いじゃん」 「みんなでやったらすぐ終わるだろ」 「だから悪いじゃんって」 部活出なかったり勉強できなかったり。だけど友好関係は広くて、友だちは多い。 「一人でできるし」 「は何でも一人でしようとするから」 「だってできるもん」 「テストん時も教えてやるって言ってんのに」 「そしたら仙道勉強できないじゃん」 「確かめになるよ。一緒にやれば」 あんまり人に迷惑をかけたくないと思うタイプ。人の手を煩わせるのが嫌い、その原因が自分となると尚更。できるだけ自分の力でなんとかする。 「頼った方が楽だよ?」 「うっさいなー、もう。帰ればー」 ケンカふっかけても買わないからね、忙しいんだからとは不機嫌そうに言った。困ったなとでも言うように眉を下げた仙道は、ふっかけてないよ、下がった眉毛がたれ目を一層強調してる。 「暗いから送る」 「いらない」 「オレが困るから」 「何でよ」 「心配で眠れなくなるだろ」 「嘘ばっか」 「本当。何度も電話するよ?」 「うわ、ウザ」 「だろ」 機嫌の悪い彼女に慣れているのか、仙道は困ったなの表情のまま苦笑いを浮かべた。 「」 「もー、何」 「一人でできないことって知ってる?」 「もうその話いいってば」 「だからさ、」 例えばその話の先に彼の起こす行動が見えていたら。 見えていたとしら、顔なんてあげなかったのかもしれない。 煌々と蛍光灯が照らす調理室。 手元は泡だらけの食器。 ムードもへったくれもないキスは、乾いていた。 「何でも一人でできると思ってちゃダメだよ」 「な、何、何っ‥」 「こーゆーことは、二人じゃないとできないだろ?」 「でで、できない、って、あんた、何、何言って、」 は乾いた唇の先に舌を滑らせると、そのまま手で覆う。 「早く終わらせようか」 「は、何を、」 「食器洗い。手伝うから」 「いいよ!何言ってんの!早く帰んなさいよっ」 「送るっていったじゃん」 手伝うか今の続きするか、どっちがいい?そんなことを言う仙道にの頭は一層パニック。口から出た言葉は、手伝って下さい。 少しだけ悔しそうに呟いたそれに、仙道は笑った。 から渡される泡だらけの食器を、流れる水で濯ぐ。濯ぎながら、早く終わらせて続きをしようか、言えば、ガシャンと大きな音が響いた。
結局ひとりじゃできなかったもん!ですけど。
04/07/03 × |