夢みた声に触れたくて

 

 

耳元で君の声が聞こえた。

『お前、オレのこと嫌いなのか?』

ね、切ない声で囁かないで。

ピピピピピピピ‥










「どうしたの?」
まだ夢の中みたいな顔してるわよ、後ろの席から声を掛けてきたしのぶに欠伸をひとつ。失礼だとわかっていても、出てしまったのだから仕方ない。
「ん〜‥」
「寝不足?」
「違うー‥、多分」
ギィッと椅子を傾け座り、後ろの席に寄りかかった。この座り方は椅子が傷むからやめろと温泉マークに言われた記憶がある。でもいいや、今いないし、怒られないし。

それにしても、おかしな夢の所為で頭が働かない。

夢の中に出てきた人物の正体を知ることもなく、朝からその人物に悩まされっぱなしの。全く知らない人物が、どうしてここまで気になるのか。
大した夢じゃない。そんなに流れを覚えてるわけでもない。だけどそのセリフはリアルに頭の中でぐるぐる回る。
知った人間の声、聞き覚えのある声。友人や知り合いと呼べる男の名前を端から挙げてみたが、あの夢の中の声とガッチリ合う人物は見つけられない。


「どーかしたっちゃ?」
ふよふよ、あ、この音、ラム。
「ラムだ〜」
「浮かない顔してるっちゃ」
「朝からこんな感じなのよ」
斜め上に目線を上げれば、可愛い鬼っ子の姿が見えた。
ラムを見て一番に思い浮かぶのはあたる。でもあのセリフをあたるに重ねたところ、あれは絶対違うよと脳が反応する。

心配そうな顔を向ける友人たちに何も言わないわけにはいかない。は真剣な面持ちで、今朝みた夢に続く悩みを事吐いた。


「は?」
「夢?」
「うん」
「……ラム、一限何だったかしら」
「生物だっちゃね。移動するっちゃ」
「何で話そらすの」
ブーッとした唇を突き出せば、ラムもしのぶも眉間に皺。夢なんか深く考えるもんじゃないわよ、しのぶの台詞。ラムも賛同するように、そうだっちゃと頭を頷かせる。
「どうして浮かない顔してるのかと思えばそんなことで」
「そんなことじゃないよ。気になるんだもん」
「そんなもの今日の昼になればもう忘れてるわよ」
「忘れない。気になるの!あんなにドキドキしたんだよ?」
「知らないわよそんなこと。ドキドキしたから何だっていうの」
、それって恋だっちゃ?」
「ラム‥」
「……恋?」
「ドキドキするなら恋じゃないのけ?」
「煽らないの、ラム。、そんなの‥」
「恋なの?恋しちゃったの?夢の中の君に恋っ?」

、平凡な日常(十二分に非常ではあるが)に嫌気が差したのか、夢の中の君に恋をしている設定に神経集中。

「あれだよね。転校生とか来て、この声!みたいな」
があっちの世界に行ったっちゃ」
「あんたの所為でしょ、ラム」
「それでね、きっと相手も夢の中であたしの声を聞いて、」
「でも聞き覚えのある声だって言ってたわよね、

しのぶの言葉にハッとなる。

「そうだった‥」
「さ、夢物語は終了」
「さっさと教室移動するっちゃ」
まぁいいか。今朝みた夢の話がここまで発展して、有意義、‥じゃないけど、楽しい朝のひと時が過ごせたことはよしとしよう。
は机の中から生物の教科書を取り出す。小さなペンケースを教科書の上に置くと椅子から立ち上がった。

「あ、竜之介だっちゃ」
「おはよう。今日は遅かったわね」
二人の声に顔を上げると浜茶屋の一人息子、もとい、一人娘。

「おう、おはよ。それがよぉ、あのクソ親父が‥」

……ん?

「あのおじさんにも苦労するわね」
「苦労なんてもんじゃねェよ」
「あ、竜之介、次生物室だっちゃよ」
「おう。ありがとな。んお、。おはよ」

この声、

「あ?」
?行くわよ」
「どうかしたっちゃ?」


あ、


「ああぁぁあぁあぁあぁぁぁぁあああぁぁあ!」


この声だ。


「っ、‥?」
「な、何だよおめぇ」
「だっ、こ、この、や、えぇっ?」
夢の中で囁かれた声の正体は、リストに入れることさえ除外していた女の子。いや、男の子として育てられた女の子。
「んだよ。オレ何かしたか?」
近くにいた竜之介に、待ったの体勢で両腕を突き出す。拒否体勢ともとれるそれは竜之介の眉間に皺を作った。
「おい、?」
「バカ!竜ちゃんのバカー!あたしの運命がー‥」
その様子にしのぶとラムは状況を把握。同時、の夢の中の人物も予想がついて苦笑い。の奇妙な行動に一層不機嫌な顔をした竜之介。
ため息混じりにその腕を引くと、耳元で囁く。


「お前、オレのこと嫌いなのか?」



意識が遠くなるのを感じた。これはデジャヴかそうでないのか。そんなこともうどうでもいいのかもしれない。この状況で今自分が一番気に止めなきゃいけないこと。

竜之介だってわかっても、その声にドキドキしてしまうのは何故?

しのぶの言うように昼にはもう忘れてることを願いながら、は教室の床に崩れ落ちた。

 

 


竜之介ってゆーか真弓さん声ネタ‥(それはもう恋です)
05/01/23  ×