華麗なる煩悩

 

 

「………ッ……」
やめろと目で訴えてくる。
「大きな足だと思って」
はそう言って、流川の足を触った。正確に言うと足の裏だ。
「………おい」
「あ、怒ってらっしゃる?」
不機嫌そうな顔に苦笑って、手を放す。

暫くの間は、そのままで。ボーっと、流川が雑誌を読む姿を眺めていた。しかし、それが結構長い間であることに気づく。こいつは遊びに来た可愛い彼女を相手にしないで何をやってるんだ。そんな思考が頭を横切り、またしても足に手を伸ばした。
が、今度はそれを阻まれる。の手を避けるように、流川の足が移動したのだ。執拗に追うの手。それから逃げる流川の足。小さな戦いの末、業を煮やした流川が上半身を起こす。

「何しやがる」
「……遊んでくれない」
駄々をこねる子供のように。ちょっと可愛い感じで言ってみるが、どうやら効き目はないらしい。その証拠に、流川はため息をついて呟いた。
「………阿呆」
呟かれた言葉にムカッと反応し、物凄い速さでまた足を掴もうとする。しかしそれより先に流川の手がの腕を掴んだ。

「うあっ」
「………うあ、じゃねー」
「い、いやねぇ、楓さんたら。ちょっとしたオチャメじゃない」
何がオチャメだと目で言いながら手を離し、背を向けて雑誌を読み始める。
「………何?相手してくれるんじゃないの?」


…………。

…………。


「無視かい!」

そう言っても一向に無視。なぜ自分はこんな男と一緒にいるのかと思うほど。
でも、そんなコトで諦めるなんて女じゃないことは、流川が一番よく知ってたのかもしれない。

「ねーぇ。ねぇ!」
後ろから負ぶさるように抱きつく。
少しだけ首を傾げて後ろを向くと、の顔が間近にあった。そこで顔を赤らめたのは流川ではなく、。自分から攻撃を仕掛けてひるむ女。

「まぁきれいっ!」
咄嗟に出たのはその言葉。
「………何」
「い、いや〜、綺麗、ですね。あなたのお顔」
そのまま腰に手を回されたものだから、必要以上に口が回る。
「ななな、何を、するの……、かな、君は」
が何を言っても喋らない。だが、今回は 『無視』 して喋らないのでなく。………没頭することができたから喋らないのだ。
「あら、あら……、嫌ね、楓さんたら。そんな顔してさ……」
「そんな顔?」
「そそ、そんな綺麗な顔してー‥、まぁ、女の子を襲おうってゆう……」
「襲う?」
「う、うっそよーう、いやー、でも。本当に綺麗な顔ですよねー、あはは」

最早、が何を言っても聞きはしない。大きな腕が小さな体を包む。

「いや、あーら、もう。綺麗、本当に……」


……イヤ、マジで。何だコレ。
何でこの御方はこんなに綺麗なのだ。

自分で言いながら、策に溺れる女。

そこら辺の女より綺麗なんじゃあないの。ってゆーか!そこら辺の女、の中でも並をいくわたしなんかより綺麗?ややや、ヤバくない?何で彼女より彼氏の方が綺麗なの?美しいの?こんな女にこんな彼氏でいいの?何?つりあってねーよ。今更だけど。

グルグルと頭の中が回りっぱなし。
いきなり口を噤んだを不審そうな目で見る流川。


「何だよ」
また何かバカみたいなことを考えてるんだろうと思い、警戒する。しかし、の口から出た言葉で、その警戒は解かれた。

「わ、別れないでぇぇぇ……」

警戒が解かれたというより、呆けた。

コイツが最後に言った言葉は何だったろうか。
『綺麗、本当に……』
何でソコからこんな言葉にとぶのだろう。

「か、可愛くなるから!流川みたいに綺麗にはなれなくても!」
捲し立てる。
「一緒に居ても流川が恥ずかしくないように可愛くなるから!だから…っ」
だから別れないで下さい!と続けようとしたの額を。長い指でピシッと弾いた。

「うっ」
「うるせー」
聞こえよがしにため息をついた流川は、そっと。
「他から見てどうかなんて、……知らねー‥」
唇がつくかつかないかの距離で囁かれた言葉。果たして、彼女に聞こえたのだろうか。

「俺にはお前だ」

 

 


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02/09/20  ×