勘違いか思い違いかそれ以外か

 

 

「ねぇ、紗弥ちゃん」
「何ですか?何か食べます?」
「そーじゃなくてさ」
「?」

『お前はこの先オレ以外見るんじゃねェ』

「はっ?」
「‥って、言われたらどう思う?」
クラブの片隅、女子高生と女子大生。何だか色ボケで浮世離れした感じの台詞が吐かれた。
「何ですかそれ」
「いーから。どー思うって聞いてんのよ」
さん、目ぇ据わってます」
紗弥の視線はの持ったグラスに注がれる。淡いピンクのそれは思った以上にアルコール度数が高かったらしい。

「じゃあ!例えば!」
ぐんと掴まれた肩、酔っ払いは加減を知らない。さん痛いんですけど、ともなかなか言い出せなかったり。
「裕貴くんに言われたらどーなの」
「えっ」
「オレ以外見るな、よ、オレ以外!」
「いや、裕貴は言わな、」
「もし言ったらの話だってば!」
「……………」
口元に手を当てて考えてみる。一応『最愛』のあいつに言われたらどうするだろう。
「……えっと、」
「『お前はこの先オレ以外見るな』」
「……裕貴に?」
「うん」
「あー‥、と、」


「何を偉そうに」

ビクッと紗弥の肩が揺れた。


二人の間に顔を出し、低い声で威嚇するように一笑。

「お父さん」
「あ、新さん」
。テメェ紗弥に変なこと吹き込むなよ?」
「吹き込んでません」
「あのクソ小僧がどうとか言ってただろ」
「新さんてまだ二人のこと認めてないんですか?」
「まだだァ?永久に認める気はない」
「もー、お父さん」
頑張れ伊勢谷裕貴、まぁあたしには関係ないけど、頭の隅でそんなことを思いながら、は新に笑みを向ける。新は新で、の笑みを快くないものとして捉えた。
「何だ」
「嫌われるぞ親父」
「あァッ?」
「好きな人認めてもらえないなんて悲しいもんねぇ」
「殺すぞクソガキ」
「新さんが殺人犯になったら紗弥ちゃんも白い目で見られるよ」
「このガキ‥」
眉間に寄ったシワ、サングラスの奥の目は読めない。だけど物凄く怖いだろうことは容易に想像がつく。しかし次にはもう口角を僅かに上げる表情があった。


「何ですか」
「信吾にチクんぞ」
ビクッと揺れた肩、今度は紗弥じゃなくて
「はっ?何をチクる?ないし、チクること」
「何で紗弥に変なこと聞いてたんだ?」
「‥はぁ‥い?」
「誰かに言われたんだろ?」
「そーなの?さん!」
「い、言わ、言わ、」
「信吾にまとわりついてるお前がなぁ」
「えー、本当?さん」
「あいつも最近はテメェのこと構ってやってんのに」
おしいなァ、、普段見せない新の笑み。いや、見るか。裕貴をコケにするときの顔。
「だっ、だっ、」
「もう一押しで落とせたかもしんねぇのによ」
「お父さん!何でそんな意地悪すんの!」
「あァ?オレ怒らせたコイツが悪ィんだろ」
「だからって人様の恋愛に口挟んでいいわけない!」
「じゃあテメェがあのクソガキと切れっか?」
「どーしてそんな話になんのよ!」
二人の言い合いを耳にしながら、は頭を上げる。頭を上げて二人の前に手を出すと、耳を劈くほどの声で、


「信吾さんが言ったんだもん!」


‥とか、言ってしまったり。


「あ?」
「へ?」
微妙な口の開き加減、親子揃ってに視線を向けた。

「だ、から‥、あの、それ、信吾さんが、」
言ったの、語尾が小さくなる。しかし恥ずかしさで小さくなったというよりもどことなく悔しそう。口を閉ざして突き出される唇は不機嫌を物語っていた。
「信吾に、‥言われただと?」
「えーっ!さん本当?いつのまに!」
「いつの間に、あいつ‥」
「いや、でもね、よ、酔ってて」
「酔ってても酔ってても!やだ!さん!」
おめでとう、と紗弥に握られる手は熱い。しかしのその不機嫌そうな顔に新は眉を顰める。

「で?言われてどーした」

新に信吾のことを話すのは気が引けた、というか、二人が昔同じ女を好きだったと聞かされた時から新の前で信吾に本気だということを見せるのを躊躇ってた。
だけど隠せない想いというものは、知らずに滲み出るもの。

「次の日、」
「次の日?」
「本当にお嫁さんにしてくれる?って聞いた」
「………はァアあァあァ?」
新の顔がやたらと歪んで、嫌なものを見る目つきの娘。何なのよお父さん、紗弥が言えば新は返す、嫁ってなんだと。
「だって、あれそーゆーことじゃないの?」
「ナンだそりゃ。お前の思い込みだろ」
「ちょっと待ってよお父さん!何が思い込みなの?」
「あァ?」
「そーゆーことでしょ?そのセリフは」
「何寝呆けたことヌカシてんだ」
そんな深ぇ意味あるわきゃねぇだろと、その口調は淡々。父親を睨みつける紗弥の隣、は情けない顔で新を見つめる。口を開けばそれは少しだけ震えを帯びているようで。
「信吾さん、同じこと‥言った‥」
「え?」
「信吾さんも何言ってんだって言ってた‥」
「‥信じらんない」
「ホラ見ろ」
「男ってみんなそーなの?だとしたら最低」
「じゃああのガキと別れんのか」
「何でそんな話になるのよ!裕貴はそんな男じゃありません」
「どーだかな」
「もー!」

紗弥の手がの肩を掴んだ。あんなヤツやめちゃいないよ、さん!そう付け加えて瞳を覗き込む。
はこの世の終わりといった表情で紗弥に抱きついた。そんな男の風上にも置けないヤツ、さんに合わないよ、慰める声が心に染み入る。

そんな二人(多分片方は極度の酔っ払い)を見ながら、新はいじめすぎたかと苦笑った。
信吾の性格なら知ってる。深く考えて物事を口にする、そして言ったことは覆さない性格。それをかわそうととするのは、照れてる証拠だってのも承知。

なぁ、教えないのはささやかな仕返しだと思え。
紗弥の話に、あのアホ面小僧のこと二度と持ち出すんじゃねぇぞ。

 

 


あれ、塚さん名前しか出てない…?
05/02/14  ×