苦笑いから微笑みまでの過程

 

 

「四之宮さん」
「あ?」
「これあげる」
別に特別な記念日があるわけでもない、けど。記念日じゃなかったら贈り物をしてはいけないという決まりはない。は紙袋に入ったそれを四之宮に渡した。
「……?」
不審そうに、受け取った贈り物を見つめる。
「何かあったか?」
「別に?」
「何だよ」
「似合いそうだと思ったから」
女同士のショッピング。先日と遊んだ時にこれが目に入った。

淡いグレーの、

「これが?」

ニットセーター。

ビラッと袋の中から取り出したニットセーターは淡いグレー。対面にそれを広げる四之宮を見て、は何度か頷きを見せる。この色似合うだろうな、思って買ったそれはやはり彼に合っていた。

「あ、趣味じゃない?」
「いや‥」
「えー、何?もちょっと喜んでよ」
「喜んでる」
「……喜びが見えない……」
口を尖らせて四之宮を睨みつければ、苦笑いを浮かべありがとうと。凡そ普段の彼なら言わないような言葉に目を見開く。
だが気に入らないのは浮かべた苦笑いだ。

「もうちょっと "パアァァッ" みたいな効果音付けて笑えないの?」
「バカだなお前」
「だってー」
「ありがとうっつってんだろ。……着るか?」
「ご自由に」
ご自由にとは言ったけど、着て欲しいかもしれない。贈り物を目の前で着てくれるってちょっと嬉しい。そんな風に思ったのを見透かしたのか、ゆっくりと立ち上がり、素肌に直接着ていたブルーのシャツを無作法にソファに置いた。
袖を通す動作を見つめる。均一に整った体が、服を着るだけで絵になった。そんな姿を、カッコいいとも思うしムカつくとも思うし羨ましいとも思う。

手を滑らせたくなることだけは内緒だ。


「やっぱり似合う。あたし最高」
「普通はオレに言うもんだろ」
「だってあたしの見立てがいいんだもん」
は四之宮の前に立ち、上から下まで顎を動かし見定める。間違いないと思ったそれに頷きながら笑った。
「……オイ、」
「ん?」
四之宮の呼びかけに答えるように首を傾げる。

同時に、腕を引かれて体がぶつかった。

「‥っ、」

引かれた腕ともう片方の腕が、四之宮の手によって彼の背中に回される。第三者が見たら、彼女が彼に抱きついたとも取れる格好。
は頭を上げて四之宮に目線を走らせた。
「な、なっ、」
「お前オレのサイズわかってんのか?」
「‥へっ?」
「でかい」
その言葉に両手で確かめれば、確かにダラッと垂れたニットの感触。

「‥、てゆー‥か、‥さ、」
「あ?」
口で言えばいいのに何でこーゆーことするの、とは口には出せず、頬を赤らめてそのブカブカなニットの感触を確かめる。彼の胸に頭を押し付けたままの体勢で、交換してもらえるのかとか考えながら。
「明日買ったお店持ってってみる」
「あ?別にいいだろ」
「だっておっきいって文句言うじゃん」
「でかいことに文句言ってんじゃねェよ」
「はぁ?」
「お前が、」
オレのサイズ知らないことに不満なんだよと、いつの間にか手が腰に回ってることに気づいた。

が頭を上げたのか、それとも四之宮の手が彼女の顎を上げたのか。瞳がかち合ってすぐに唇が重ねられる。顎下に添えられた手のせいで、顎を下げて唇を避けることもできない。
舐めとるようなキスの後、唇を離した四之宮はの瞳を覗く。
そしてそのまま彼女の耳元に口づけながら、もらっとく、そう囁いた。

「交換しなくていいの?」
「次はちゃんと合ったサイズ買えばいい」
「じゃあサイズ、」
「教えてやるから体で覚えろ」
耳元で囁かれた艶やかな睦言に、は少しだけ体を引いて顔を向ける。
赤くなったの顔に、四之宮は口角を僅かに上げて、早く慣れろよ、そんな意味合いの言葉を零しながら微笑んだ。

 

 


お題タイトル苦笑のち微笑より
04/10/16  ×