今夜の彼女はご主人様

 

 

さぁ、罰ゲームを始めよう。

■ルール説明■
神経衰弱のルールは皆さんご存知ですね。
それではその神経衰弱に特別ルールを用意しましょう。
特別ルールは簡単、
ゲームに勝った方が負けた方の主人となる。
ゲームに負けた方が勝った方の従者となる。
有効時間は勝ち負けが決まってから半日、この時間だと翌日の10時まで。

ね、簡単でしょう?










計算外だった。自分がゲームに勝つなんて。

「……………」
「四之宮さん弱すぎだよ」
手札の数は34枚、ペア数で言うと17ペア。四之宮浩太の手札はそれ以下となる。
計算外だったのは四之宮も同じことなのか、手札の枚数を再度ゆっくり確かめながら渋い顔だ。
「いやー、あたし四之宮さん勝つと思ってたよ」
ということで、今夜彼女は彼の主人。


さぁ、どうしよう。
困ったのは主人の方だった。おかしな話だが、自分が勝つとは全く思ってなかった。大抵、彼の方が何でもこなす。カードゲームもいつも負けてばかり。食後に見た映画に影響されたのか、今夜はカードゲームに特別ルールを。

映画では、鼻筋の通ったスマートな白人が、スタイルのいい綺麗な黒人とゲームを楽しんでいた。男が最後の手札を出せば、女は渋い顔をして立ち上がる。男の座る椅子の背もたれに肘を掛け、耳元に唇を寄せる。

『You win, ‥ King』

甘く鼻にかかった声で囁かれれば、男は女の腰を抱く。熱帯夜にクールなゲームを楽しんだ彼女たちは夜の中に隠れていった。


逆の場合はどうするなんて、映画には出てなかったんだ。
は目の前の男を見て困った顔を。カードを束ねる四之宮は、視線に気づいて顔を上げる。表情を読み取り、面白そう呟いた。

「You win, Queen‥」

あぁ、嫌な笑みだ。自分の性格を掴まれてる。

従者なんていらない、主人になんてなりたくない。だけど、背を向けることもできない。逃げることになる、そんな気がした。
どうしようか、どうしたらいい?従者なんて、四之宮さんのプライドが許すはずない。だとしたら方法はひとつ。自分が言わなくても、四之宮さんからやめるように仕向けることができるかもしれない。無茶言って、偉そうにすれば、四之宮さんもウンザリするだろうって、そう思ったけど。
それを実行に移すのも難しいと、少し経ってから気づいた。

「……何か、」
「何か?」
「の、むもの‥欲しい、」
「了解」
無茶って何、何を言えばいいの。あたしにできることは、精々何かを持ってきて貰うことくらい。
偉そうにってどうやったっけ?意識すると偉そうになんてできないことがわかった。台詞の用意されてない舞台で、あたしはどんな演技をしたらいい?

「はい」
「あ、ども」
隣に立つ四之宮は、コップを渡す。なみなみ注がれた茶色のそれは、香ばしいお茶の香り。冷えた玄米茶、二時間前にが作り置きしたやつ。

何で主人したくないかって?別に、支配される方が好きだとか、そーゆーことじゃなくて。ただ慣れてないってのもあるかもしれない。
だけど一番の理由は、あたしの理性にある。
四之宮さんが誘う仕草をすると、触れたくなる。触れると今度は、抱きしめて欲しくなる。従事側だったら仕方ないって思っちゃうとこだけど、主人側だと話は別だ。
結局、自分からどうこうしたくないの、………ワガママ。


「そこ、立たないで」
四之宮を見ないように、斜め下に目線を落とす。
「威圧されてるみたい」
チラッとだけ表情を窺えば、四之宮は笑顔で。いつもみたいに意地悪そうな笑顔でそれに従った。
「たまにはこっちサイドも悪くない」
「誰が喋っていいって言ったのよ」
キツく言っても効きやしない。面白そうに目を細めて、微笑を返すだけだ。

「申し訳ありません、お許し下さい」
「……っ、」
「オレは、貴女に仕えるためだけに生きているんですから」


絶対馬鹿にしてる!


「何、何でそう卑屈になるの!プライドってもんがないの?」
「卑屈?命令に従ってるだけだろ」
「だから、嫌だったら面倒だって言えばっ?」
「賭けに負けた以上約束は守らねェとな」
いやいややったら、逆に傷がつくだろ、プライドに、付け加えて四之宮は言う。言いながら、面白がってるあの顔、殴ってやりたい。
これじゃ、四之宮さんに手を引かせることなんてできないじゃない。

「し、四之宮さん、」
「違うだろ」
「は?」
「主人が従者にさん付けか?」
「……し……、……こう、…っ」


やられた。


「あんた、最初っからそーゆう、」
「何か?」
「何かじゃないでしょ!」
「何でも仰せのとおりにしますよ」
名前を呼んで、お申し付け下さい。崩れない不敵な笑みを、崩す方法はどこに隠れてるの。

謀られてた罰ゲーム。
最初にやったゲームの行方も、全てあいつの手に握られていた。
従者という名の王様、主人という名の少女。
賭けの有効期限まで、まだまだ10時間以上もある。



18歳と32歳、その差14歳。女子高生と会社重役、否めない違和感。
どんな関係だと聞かれれば、答えは『こんな関係』。

 

 


確かダウンロードフリーだったもの。
04/07/03  ×