Fun's better,isn't it? (3)

 

 

彼と最後に会ったのは、一週間前だった気がする。

ちゃん」
「うわ、出た」
「出たって何だよ」
「出たって何だよー」
ヒョコッと並木の後ろから、が顔を出した。
ー。おはおは」
「おはー。久しぶりー」
「最近学校来てないじゃん」
「並木さんと愛を育んでたのー」
「えっ‥」
「いや、並木さんが驚いてる時点で嘘だってバレバレだから」
「並木さん使えねー」
「……………」
ヘコむ並木を横目で笑いながら、女二人は話に花を咲かせます。
「風邪引いたー。咳止まんなくってさ」
「マジ?バカは風邪引かないのにね」
「あんた失礼だよ」
自習と大きく書かれた黒板を背に、並木はの荷物を机に置いた。
あ、並木さんアリガトー。は言って、極上スマイル。嬉しそうに頷く並木を見て、つくづく甘い男だと、は思う。

さーん」
「うん?」
「シノミーが見合いすんだよね」
「おぉ。さすが適齢期」
「ってゆーかもうしたかも」
「恋する乙女は悩み多き」
「ちゃんと聞いてよ」
「聞いてるじゃん」
眉を顰めるに、怒りなさんなとはチョコレートを。この女のカバンの中には、いつも何かしら甘い菓子が入ってる。
「シノミーが見合いするって言ったの?」
「言った」
「気になるの?」
「気になる」
「ふーん。でもさ、言ったってことは気にすんなって意味じゃないの?」

そうなのよ。確かにそうなのよ。
あたしもそれは理解したんだ。

はコクッと頷いて、机にうつ伏せになった。
「でも、」
「わかってても気になるってか。わからなくないね、うん」
「………うん」
いつもなら、女だったら待ってろ、とか。黙って待ってるのも大人な女だぜ、とか。そんなこと言いそうなは、気になるなら連絡取りなよと。
「待ってるばっかじゃダメかもだよ」
「そ、そう、かな」
「多分ね」
待ってるばっかじゃダメかも、と。の言った言葉を繰り返し、思う。

「今日マンション行ってみる」
「レッツファイ!………ぁ」
「ん?」
、ストーカ平気?」
「あー‥、ストーカー‥」
あの日並木さんに言われた日から、何となく注意してみた。確かに、誰かが自分の後をつけてたりする気配は感じることがある。だけど何も実被害は無い。
四之宮さんに相談しようともしたが、結局あまり会うこともないから遠慮してみたり。
「被害無いの」
「でも危なくない?」
「うーん」
「何かあってからじゃ遅いよ?」
「はい」
「シノミーに会ったら言ってみなね」
「そーだね」
ストーカーなんて言葉、あたしの日常に似合わないなー。そんなこと思いながらも、は四之宮邸までの電車代のことを計算しだした。















いつ見ても馬鹿デカイマンション。はそれを下から見上げる。
オートロック。いつでも来ていいと、暗証番号まで教えてもらった。
まだこの時間は会社なのだろう。今日帰って来るにしても来ないにしても、部屋の中で待っているならいいだろうと。帰ってきたならお出迎えして驚かせてやろうと。彼女はただそう思っただけ。


そう思っただけ。



「えっ‥」



思っただけなのに。



「四之宮さん‥?」


恋しい男と見知らぬ女がマンションから出てくる姿を、目に焼き付けてしまうことになる。










気づけばその場から離れていた。



何?
何で走ってるの?
何かあたし、いけないことした?
何もしてないよ。
何かあったとすれば、それは‥



「ッ、ぉあっ、!」
縺れた足を庇うように、電柱に手をつく。

心臓が跳ね上がってた。
頭の中から消えないのは二人の影。

「……お、お見合い、相手‥?」















『──‥おかけになった電話番号は、電波の届かな‥』

ピッ‥

相談しよう人物なんて一人しか浮かばなくて。だけどに繋がることは無かった。

「………っ、はぁ……」
夕方、あのマンションの前で見たものは何だったんだろう。綺麗な女の人と、四之宮浩太の姿。何が嫌だったって、何が苦しかったって。どこからどう見てもお似合いにしか見えない二人の姿だった。

もう一度電話。

これで出なかったらやめようと。小さくため息をつきながら、受話口を耳に当てる。

RRRRRR‥

「あ、」
繋がった。

プッ‥

『どーした?』

手が、いつもの動作を繰り返したらしい。

「………え、四之宮さん?」
『ん?』
声の主は、頭を支配していた男。一瞬、どうしての携帯に四之宮さんが、とか。思ったのは事実。そこまで気がせっていたのだろうか。
番号を間違えたんだと思えるようになるまで、20秒くらいかかった。

?』
「あ、あ、あの、ば、番号間違えちゃった、んだけど、ゴメンなさい」
そんな言葉の後、電話の向こうからは小さく漏れる笑い声。あぁ、彼は何ら変わりない。昨日までの、先週までの、20日前の男と何ら変わりはないのだ。
『で?』
「へ?で、でって?」
『最近会ってねェな』
「あ、うん。会ってない‥」
『明日、飯でも食いに行くか?』
「え、いいのっ?」
『何だよ。いつもは率先して行き場所決めようとすんのに』
「う、あ、行く!行く行く!行くっ!」
『じゃ、場所決めとけよ。明日夕方電話するから』
「うん、わかった」

電話を切った。

きっと、あの女の人は何でもないんだ。だって、何も言わないし、変わったとこもないんだもの。でも、例えばそれを隠していたとしたら、これ以上に恐いことはないと思った。

普段と変わらぬ低い声で。
普段と変わらぬ穏やかな話し方で。

何かを隠していたとしたら。

それ以上に、恐いことはない。

 

 

 

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04/02/10