| Fun's better,isn't it? (2) |
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かたつむり食べたのなんて初めてだと言ったら、人前じゃエスカルゴって言えよと。そう、笑われた。 「このアイス美味しい」 食後に出されたシャーベットを頬張りながら、は満面の笑み。四之宮はそれを見て、自分の分のシャーベットを差し出す。 「食べていいの?」 「あァ」 「シノミー太っ腹」 「浩太」 「………四之宮さん」 ディナータイムの込み合ったレストランの一角。14歳程年の離れた恋人達は、食事を楽しんでいた。周りから見たら、どう見ても年齢が不釣合いに見えるのだが、本人たちは今更そんなこと気にしていないらしい。 がレモンシャーベットを口にしているのを満足げに見、浩太は煙草に火をつける。 男が煙草に火をつける仕草を見るのは好きだ。特に今目の前にいる、自分の恋人のそんな姿を見るのが好きだった。専用のシガレットケースから出される煙草。使い古されたジッポの金属音、灯る火。惚気かも知れないけど、そこら辺の男よりも様になってる。 ふいに、先日の会話を思い出した。並木と話した煙草の話。 「あのねー、」 「ん?」 「KOOLって煙草あるじゃん?」 「あぁ」 「あれってね、Keep only one loveって言葉が隠されてんだって」 「へぇ」 「あとー、マルボロにもあってー‥、本当の愛を見つけるために恋をするとかって」 「Man always remember love because of romance only」 「へ?」 「だろ?」 「………何でも知ってるんだ。何かムカつく」 口を尖らせてジト見する。だからその顔やめろ、と、四之宮は言い、口元を指差す。 「へ?」 「ついてる」 「ど、どーも」 「ガキ」 子ども扱いされることに、最近心地よさを感じて。何だかホッとする。 四之宮の分のシャーベットももう終わりそうだという時、ふいに彼の口から言葉が出た。 「」 「うん?」 「見合いする」 「………へ?」 お見合い?と。驚いた顔をするが、手はシャーベットを口に運んでいる。 「あぁ」 「え、な、何?何で?え?」 「伯父貴の顔立て」 「お、お見合い」 「一応は断ったが、伯父貴の性格だと易々引っ込まないからな」 「お見合い、かぁ‥」 暫し沈黙しながら、レモンシャーベットを平らげた。空になったグラスを持て余し、は頭を上げる。 「何で言うの?」 「何を」 「お見合い。黙って行っちゃえばわかんないのに」 「お前が変な勘違いしたら困るだろ」 「変な勘違いするようなことすんの?お見合いなのに?」 「小さなことからそーゆー勘違いが始まんだよ」 オレはそんなことに無駄な時間使う気ねェから、と。残り少なくなった煙草を味合うように吸い、灰皿に押し付けた。 「でも、綺麗な人だったらフラフラ〜ってしちゃうじゃん。誰でも」 「オレが見た目で選んでないのはお前が一番知ってるだろ」 「………さり気に失礼じゃない?」 「見も知らない見合い相手なんかに興味ねェよ」 オレが興味あるのは目の前の女だけだと呟き、目を見据える。 「出るか?」 「あ、う、うん」 いろいろ慣れる。 だから、あの黒い高級車にも慣れた。助手席に乗ることにも慣れた。四之宮さんが、必ず車のドアを開けてくれる。それまで待つってことにも、もう慣れた。 「四之宮さん」 「ん?」 何も心配いらないんだということを、この人は言ってただけなんだ。 「心配するけど心配しないで」 「あ?」 「心配しないなんてできないんだよ」 「、」 「でも、四之宮さん信じてはいるから、そこは心配しないで」 ね、と笑うに、四之宮はドアを開けながら微笑む。 一人前の女のように。生意気なことをいう彼女が目に映った。 生意気だ。生意気だが、それがやけに、 やけに‥ 「」 「へ、……ぅ」 車に乗り込もうとするその体を支え、口を塞ぐ。 幾らしても、キスにはまだ慣れてないことを、は悟っていた。 唇を離した四之宮に、が煙草の味だと呟けば、お前はレモン味だと。笑って言って、の唇を舐める。 「美味いから、もう一回しような」 子どもをあやす様な口調で。やはり子ども扱いされているんだと、ぼんやり思った。 でもこんなキス、子どもにはしないのかもしれない。 差し込まれる舌を受け止めて、熱い唇を受け止める。 子ども扱いされることと、女扱いされることの間で、少しだけ戸惑った。 数日後、あの日と同じように四之宮浩太は社長室に呼ばれた。 社内を歩く彼を、男性社員は嫉妬と尊敬、女子社員は羨望の眼差しで。しかし浩太はそんな視線をどう思うわけでもなく、小さく舌打ち。 呼ばれた理由は例の見合いの件だろうと。 たまには伯父貴の顔も立てようと、浩太は見合いを承諾する気でいた。心配の種を取り除くことができたから。 だが実際そんな日取りを決められると思うと、些か疲れる。 一つ呼吸を置き、社長室のドアを叩いた。 「失礼します」 ドアを開け、真ん中の椅子の座るその男を‥、 「っ、」 いたのは男だけではなく、 「浩太か。中に入れ」 「こんにちは」 一人の女性。 それも、 「お前が見合いを快く承諾する気配がなかったからな」 先方のお嬢さんにわざわざ来てもらったんだと、傍らの女性を見る。 「………っ、お、伯父貴、」 「見合い相手の綾瀬涼子さんだ」 紹介された女性は小さくお辞儀をし、浩太と目を合わせた。浩太はその女性から目を逸らすことができずに、小さく息を呑む。 二人で食事にでも行って来いとしゃがれた音で低く笑った。 シニヨンにまとめた長い髪。スラッと伸びた手足に、知的美人な顔立ち。車に乗り込むまで、社内の男たちが何人も振り返ったのは言うまでもなく。 その女性を知らぬ社員たちは、隣の男との関係を容易く想像しただろう。 地下駐車場に止めてあった黒塗りの高級車に乗り込む。 勿論、助手席のドアを開けるのは浩太の役目だ。 車に乗り込み、開口一番に彼女は言った。 「久しぶりね、浩太」 綾瀬涼子。 伯父の恩師の孫娘なんてことは知らない。今日の今日まで、彼女を忘れていたというわけではないが、別に思い出しもしなかった。 例えば、見合い相手が見知らぬ相手ではなかったのなら。 昔むかし、甘く囁きあった相手であったとしたら。 男は、どう対処するのだろうか。
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