Fun's better,isn't it? (1)

 

 


「はー?」
「走んぞ」
「へっ?」
空気が冷たい。昨日よりも冷たくなった気がしていた。そしてその手は握られて。
「ま、待って、」
の手を握る男はその言葉を無視し、近場のゲームセンターに入る。中は色んな音が混じって、訳が分らない。二人は足早に店内を動き回った後、一台のプリクラ機に身を潜めた。
「手、」
「あ?」
「手!」
離してよ、眉を顰めては言った。そんなに、お前感謝しろよ、そう言った男の正体は、
「何なの、急に。いきなり走り出すと心臓苦しくて死、」
「運動不足」
「はァっ?並木さんにんなこと言われる筋合いねーしっ」


並木氏。


「てゆーか何?マジ何?バカ?並木さんって何人?」
「何人って‥」
「ビックリしたー。急に手ェ引くからときめくじゃん」
「ウソだろ」
「おう。息ピッタリね」
どーでもいい会話の後、並木は備えてあった台座に腰を下ろす。プリクラ撮るの?と言ったにため息をつき、頭湧いてんのか、と。
「うわっ。死ねっ」
「お前が」
「ムカつく。あー、にあることないこと言いふらす気満々になってきた」
「はァっ?」
「並木さんにー、ゲーセンのプリクラ機に連れ込まれてー」
勿論、がそんなことを鵜呑みにするわけもないとわかっていたが、彼女に惚れてるこの男には痛手になるだろうと。しかし本気でそんなことを言う気が無いことは、お互いにわかってる。

並木はポケットから愛モク、KOOLの箱を出し、変な声を上げた。
「切れてんし‥」
「天罰。並木さん煙草やめるって言ってなかった?」
「あー‥?」
「うわ。キモッ」
「いや意味わかんねーし」
「あーあ。に言おう。並木さんは意志が弱いですー」
「わ、わかってないなー、お前」
何やら鼻で笑って、……だけど苦笑いだ。鼻で笑ってに言う。を想い続けてるからこそ、煙草を吸い続けるのだと。
「お前KOOLがさ、何で C じゃなくて K なのか知ってる?」
「は?」
「KOOLっつーのはな、Keep Only One Love の略なんだよ」
「はい?」
「訳すと、一つの愛を貫き通すっつー意味?」
「いやいや、何でそこ疑問系?」
「だからオレも、との愛を貫き通す」
「貫き通す前に貫いてないからね」
「イチイチうるせーな。つっこむなよ」
「つっこませないでよ」
まぁでも、よくそんな可愛らしいこと知ってますねー。の言葉にちょっとだけ戸惑って、ウケウリデス。友人らしき男の名前を出し、そいつから聞きましたと。
「だろーね」
「人は本当の愛を見つけるために恋をする、っつーのはマルボロらしい」
「へぇ。英語で何てゆーの?」
「……マン、……ナントカ‥ラブ………」
「ダメじゃん」
「長ェんだよ」
舌打ちの後、改めるように、四之宮さんは?今しがた自分で誇らしげに語ってたKOOLの箱をグシャっと。いくら素晴らしいような隠し言葉があったとしても、中身の入っていない煙草の箱には何ら興味がないらしい。
「あの人、独特じゃね?最近お前にもうつってんべ」
「ジタン」
「やっぱオッサンだな」
「ジタンー‥、ブロンド、だっけ?アレ」
「あー、そんなん」
「買ってあげたら違うって言われて」
煙草の銘柄聞いたらジタンだって言うから探し出して買ったのに、と。鞄の中からその例の物を出した。

「オッサンくせー」
「日本で売ってるのじゃなくてー、」
出された箱を見ながら。本場モンだけかよ、と並木は苦笑い。
「オッサンっつーのはわけわかんねェこだわりがあるからなー」
「並木さん、吸う?これ」
「だからオレはの愛のためにKOOLをだな、」
「はいはい」
もういいよ、それよりそろそ帰りたいんですけど。の言葉に並木は立ち、プリクラ機から顔を出す。
キョロキョロと辺りを見回してからもう一度プリクラ機の中へ。
「何なの?」
から聞いたんだけど」
「は?」
「ストーカー?」
「は?何?」
「お前今、ストーキングされてるらしいじゃん」

本人知らぬとこ。親友である彼女と、その子を想い続けてる留年男は、訳の分らぬ心配をしている様子。
しかしその心配事が別の形で現れようとは、この時は、まだ誰も気づいていなかった。




















一枚の写真に写された少女。どこからどう見ても、

‥」

低くしゃがれた声で男は呟く。
写真の他には何枚か綴られた報告書のような物も置かれていた。名前、性別、誕生日など。履歴書に書くような内容のものから、戸籍の写しまで。
学校の成績表からありとあらゆる【】に関する情報。

「彼女の家族構成、姉は既婚。両親の方ですが、」
「父親が弁護士、母親が語学通訳者」
「はい。母親の方は専業主婦。父親の出張時などに専用の通訳をするようです」
「一介の弁護士が海外に、か‥」
「個人開業の事務所ですが、なかなかその道では知られているらしいですね」

目を細めて報告書を眺めるのは四之宮和生。

机の傍らに立った男に、引き続き頼むとだけ告げ、部屋を出るように促した。
そして男がこの部屋を出ると入れ替わりに、ダークスーツを身に纏った男が一人。

「誰かいらしてたんですか?」
「浩太か」
「出直しますが」
「いや、いい。時間をとる話じゃないからな」
伯父のその言葉に首を傾げ、四之宮浩太は何の話だよと、先ほどとは違う態度でその男に臨む。
四之宮和生と四之宮浩太の関係。会社の上司と部下であり、血の繋がった伯父と甥だ。

「見合いをしてもらう」
「………あァ?」
突然の言葉に、浩太の思考は止まる。そんな浩太の様子をチラリとだけ見て、和生は話を続けた。
「見合いだ。オレの恩師のお孫さんとな」
「伯父貴、」
「嫌だとは言わせないぞ。お前は何回そういった話を断ってるんだ?」
「相手くらい自分で見つけられる」
「浩太。顔を立てるって言葉を知らないのか」
「……………」
「今までその手の話を尽く避けてきたようだが、今回はそうはいかない」
「伯父貴、オレにも都合ってモンが、」
「知らん。悪いが今回はオレの恩師が関わってる。見合いはしてもらう」


数分後、見合いはしないの一点張りだった浩太を部屋から出し、どうにか見合いを決行させようと、和生は書類に目を通す。そして、山のような重要書類の一番下に隠された、写真付の報告書にもう一度目を。

やはりその写真にはあどけない高校生の姿。

「幾らなんでも、若すぎるだろ‥」


一つため息をつき、和生はその報告書を引き出しにしまった。

 

 

 

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04/02/02