君のいない世界はつまらない。

 

 

酔っ払いは、相手にしないに限るのだが。

「あぢっ……」
「足を閉じろ」
四之宮浩太は少し後悔していた。いくらワガママ言われても、こんなに飲ませるべきではなかったと。
「あっし〜?……足なんかー見てんのー?えっちー」

酔っ払いは相手にしたくない。

「………もう寝ろ」
「やー!寝ろってなにー?きゃー!」
「騒ぐな……」
「シノミー送ってくって言ったじゃんかよう」
「そんなに酔ってるのに誰もいない家に帰せるわけねェだろ」
「帰せるわけねェだろ、だって〜っ!」
大の大人が、女子高生一人に手を焼く。面白くないことこの上ない。
「寝ろ」
「ぶぁー!わーかーりーまーしーたー」
ん、と手を伸ばし、ソファから立ち上がるのに手を貸せと。そう言わんばかりの偉そうな態度。ため息をついた四之宮はその手を引き、を立たせた。
「お!」
「お、じゃねェ」
「立てました。ありがとーう」
「とっとと寝、」
寝ろ、という前に自分の中に倒れ込んだ少女に血管が浮き出る。

「……れぶい (眠い)」
既にの意識はギリギリなのだろう。
「………起きたら覚えてろよ」
小さく呟くと、その体を軽々持ち上げた。俗に言う、お姫様抱っこ。
「うっ、ひぃあぁ」
思わぬ行動に、今まで寝そうだった意識が戻る。
「だっ、暴れンな!掴まってろ!」
「うあ、落ちるー!」
「落ちねェよ」
「っ、ぎゃー!」
舌打ちし、一層青筋を立てた男は暴れる彼女に手を焼きながら、寝室へ向かった。



「ばうっ」
落とすようにベッドへ。
「もっと優しく下ろせ!」
「うるさい。寝ろ」
「ごめんなさいは?」
「………お前な」
ここまできたら、怒りを通り越して呆れる。
「乱暴に扱ってごめんなさい、はー?」
「いつ誰が乱暴に扱った」
「今!ボンッて落としたれしょ!」
「ハイハイ。ゴメンナサイ」
「心が込もってなーいー!」
「黙って寝ろ」
言葉を聞き、黙ったは四之宮を見た。その目は下から睨みつけるようにして。


「ジジィは寝るのが早いからねっ」

んっと、………それ、多分禁句。


一つ、息を置いた四之宮氏。薄く笑って軽く体を圧す。

「ふ、わっ」
軽く圧された上体は難なく柔らかなベッドに倒れ。目の前には不敵に微笑む顔が見えた。
「しの、」
「誰がジジィだ」
「う」
「寝るのが早いって?」

次の言葉はそのまま呑まれ、発されることは無く。


小さな吐息が漏れる。

「ッ、……っ、」

酔いが頭に回ったのか。


「……し、の」
「喋んな」
「ん、……ッ」
軽く噛まれた下唇は、思わぬ感覚を生み。今までにない長いキスは息つぎの問題を生んだ。慣れていないその様子が、堪らなく可愛いくて。




思わず唇を移動させる。細い細い、その首筋に。


唇を離して抱きしめたその時、安心してしまったのかもしれない。
「………?」
気づけば、酔っ払いの彼女は意識を飛ばしていた。その腕の中、小さな寝息を立てて。
「嘘だろ……」




















「んー‥」
彼女が目覚めたのは彼の部屋のベッドの上。恋人たちにはよくあるシチュエーション。
「………寒いぃ」
手繰り寄せた布団。いくら引っ張っても手元にこない。
「うー‥」
「起きろ」
「も、ちょっと……」
「起きろ」
威圧感のある声。フルフルと振りながら、頭を起こす。

「あっ……」
「あ?」
「ッ、……たま、痛いぃ〜」

どうやら二日酔いの様子。

「ふざけんな」
「ふざけてないぃ〜‥」
「ともかくオレは会社だから」
そうか、会社員は土曜も仕事があるんだ…。
「飯食って薬探して飲んどけよ」
「あいー‥」
辛そうに顔を伏せるを見て、小さな疑問がよぎった。
その答えを確かめるためにネクタイを締める手を止めてベッドへ腰掛ける。

「ゔー‥、何ぃ」
未だ伏せたままの状態を気にはせず肩と首の間に顔を埋めた。
「あう、な、何、何っ」
「ん?」
「何なの、昨日から、」
赤い顔を向ける少女に微笑む。
「覚えてんですねぇ」
ククッと声を殺して笑うその姿が何とも嫌味だ。
「何っ、何で笑、……ぃだ」
二日酔いの姫様には、お喋りは酷。そんな様子を見て、一層笑いを堪える。
立ち上がり、小さく寝とけと呟くと笑ったまま部屋を後にした。

閉められたドアの向こう。未だ笑いを堪える男の姿。


昨日の味を、忘れてもらっちゃ困るだろ。

 

 


大の大人が未遂。
03/03/15  ×