戦う女子高生に花束を (後)

 

 

「で?」
「知らんがな」
ここは四之宮宅。ナントカマンション(英語のため未だに覚えられない)302号室。
このマンション三階建てで、ひとつの階に二部屋っていう。ありえないくらい広いんです。部屋なんか三部屋もあって、リビングもバカでかくて、続いてるキッチンも広くって。挙句、お風呂やトイレも広いという。
だけどもったいないことに、この男は寝室もろくに使わないらしい。リビングのソファで寝てしまうんだと言っていた。その方が時間通りに目覚められるらしい。
……ちっ。金持ちの坊ちゃんめ。
あたしがもったいないと騒ぐと、彼は決まって言うんだ。

『だから―‥





「知らんって何だよ」
あ、話の最中だった。まぁそのことは、また今度。
「………か、関係ないでしょって」
「教師に喧嘩売る女子高生か」
「だってさ。シノミー‥や、さんのこと、エンコーとか言うしー」
「エンコーじゃねぇよな。金やってねーし」
オレ何にも得なことしてもらってねーし。そう言って、読んでいた本のページをめくる。頬を膨らましたは、携帯をいじり始めた。
「………ヤダなぁ」
「あァ?」
「明日ー、もう噂広まるよー」
「今まで気にしてなかったじゃねーか」
「………そうだけど」

確かにそうだけど。

「シノミー、エンコーじゃないもん」

エンコーじゃないのにそんなふうに認識されるのは、ちょっと嫌だなって。一応、怪しいけど、恋人って位置にいるのに。
エンコーしてるとか、そんな馬鹿みたいな噂で自分がどーとかってより、四之宮さんの恋人って位置を、汚されてる気がした。

「また明日呼ばれるのかなー」

「でもしょーがねぇやね。シノミー!あたしは戦うぞ!」
「シノミーってのはよせ」
「ぶー」
可愛く言ってみたものの、何だか呆れたように四之宮は笑った。
だからとりあえず、も笑ってみた。










「まただって?放課後」
カラオケ行けないじゃん、の前でバニラアイスを。
「どこで買ったのそれ」
「うひゅ。並木しゃんがくれました」
さっき玄関でね。笑って頬張る姿はやっぱり可愛い。
「食う?」
「いらねー」
「何なに?もう!いいじゃんか。元気出せ!おい!」
ー」
「んん?」
「あたしエンコーしてないよー‥」
「わかってるしー。シノミーお金与えてないもんね」
「そーじゃなくって」
「わかってるよ」
「……………色眼鏡だ、色眼鏡!」
「おっ。素晴らしい表現を使うわね」
そんな話をしているうちに、昼休みも終わって。あぁ、放課後までまっしぐらだ。





その頃、仕事を切り上げた四之宮はコートに手を伸ばした。

























勝敗わからねど、戦う女子高生、参上。

「だから言ってるじゃないですかー!」
昨日と同じ質問を、昨日と同じ部屋で。
「それは本当に本当なのね?」
「いいか?。もし援助交際なんてやってたら退学だぞ?」
「やってないってば!」
何度言えばわかるのか。援助交際のこと、両親が今家にいないこと。何か知らんが勉強に差し支えること。そんな話の堂々巡り。いい加減頭にきていた。
「あー!じゃあ言いましょうか?あたしのつき合ってる人は32歳のオッサンです!」
「………援助交際してたって認めるんだな?」
「違うって言ってるじゃん!援助じゃないの!」
「あなたまだ高校三年生なのよ?そんな、32歳の……」
「だから何?愛に年齢が関係ありますかー?ってクサイこと言ってんな、あたし」
「真面目に話せ!」
「話してます!全部話してるでしょ?真面目に!お金だってもらってないもん!」
「わ、わかったわかった。でもな、
「何よ」
「お前は純粋に思ってるかもしれないが、相手はどうだ?」
「あ、相手?」
「そうだ。手ごろな女子高生だと思われてるかもしれないんだぞ?」
「し、四之宮さんはそんなんじゃないし!ムッカツク!ふざけないでよ!」
「教師に向かってその口のきき方はなんだ!」
「教師だからって言っていいことと悪いことがあんのよ!」
「じゃあさん。親御さんに学校に来てもらうことになるかもしれないわよ」
「………はぁっ?お母さん関係ないし!」

何それ。何で親御さんとか出てくるの?意味わかんないし!

「援助交際じゃないんなら親御さんだって知ってるはずでしょう?」
「知ってるわけないでしょ?仕事で今家にいないんだからっ!」
「家にいなくても連絡は取れるはずだ。やましくないなら」
「そんなん!彼氏できましたとか逐一報告なんてするわけないでしょ!」
何なの!この時代遅れの教師たち!どーしてもあたしと四之宮さんの関係、エンコーに結び付けたいらしい。は小さく悪態をつく。
そして立ち上がろうとした瞬間、ドアをノックする音が。


コンコン‥


「?」
「何だ?」
失礼します、と入ってきたのは事務のお姉さん。ドアの近くにいた生活指導の教師に、何やら話している。学年主任の教師は少し怪訝な顔をして、ドアの外を。

そして次の瞬間、の目に映ったものは。





「………し、のみ……や、さん?」


四之宮浩太、32歳。
スーツで決めた、お仕事スタイル。





何も言えなくて、口をパクパク動かすだけの
四之宮は小さく頭を下げて、中に入った。

「失礼します」

その穏やかな物腰に、一瞬、教師たちの動きが止まる。

「………何だ、君は」
「四之宮といいます」
「シノミヤ?」
「はい」
謙虚な笑みを湛えながら、名刺を差し出した。自分に向けるどの笑い顔とも違う。営業用なんだろうと、は思った。





「彼女と―‥、」

を見て、

と、つき合ってる者です」





その言葉を聞いて、息を呑む。

「し、しの、」
「昨晩、彼女から聞いたものですから」
私が出向いた方がいいのではと思いまして。そう言い、四之宮はまた笑みを。
「き、君は本当に」
「彼女とは真剣につき合ってますよ。援助交際じゃありません」
さんのご両親とは、」
「まだ会っていませんが……。そのうちちゃんとお会いする予定です」
目の前の、いつもと違う人に目が点で。
「彼女が心配性なものですから。夜も眠れないらしくて」
「えっ?」
「ですから今日伺ったわけです」
「ね、眠れないなんて誰が……」
黙ってろ、と目が言うものだから、の口は結ばれた。
「この学校では、男女交際を禁止に?」
「い、いや。そんなことはありません、生徒の自主性を……」
「なら、この件はそれで解決ということで」
よろしいですか?最後に見せた笑みは、不敵な笑みで。それもまた、の見たことのない顔だった。気迫におされたのか教師たちは無言のまま、向き合っていた生活指導の教師は小さく頷き、はァ、と答える。
行くぞ。そう、背中を軽く叩いて言った。
「ま、待って」
ドアの外にを出し、もう一度軽く頭を下げる。
「これからも宜しくお願いします」
閉まるドアを見ながら、教師たちはやはり無言のまま。そして名刺を受け取った生活指導の教師は、ほんの少し青ざめたように見えた。















「誰が夜も眠れないよ」
「その場しのぎ」
「嘘ばっか言いやがって」
「しょーがねぇだろ」
「眠れないだの心配性だの親に会うだの」
「会う」
「へ?」
「そのうちな」
「………嘘だぁー」
「意味のない嘘はつかない」
「……………左様で御座いますか」

ヤバイぞ。何だか嬉しいかもしれない。
ニヤついてる顔を見られても平気なくらい。
そのくらい、嬉しい。

「気持ち悪い」
「失礼だよ」
「ニヤつくな」
「………ふん」

だって、顔が勝手に笑ってしまうんだもの。

「今日は早いんだね」
「まぁな」
「………あたしのためでしょ?」
「まさか」
「あっそ。あ、ソファで寝ちゃダメだよ。風邪引くから」
「引かねーよ」
だけど、ソファで寝ようとするこの男。釘を打っておかなければ。
「明日早いの?」
「いや、」
「じゃあソファで寝ないで」
「いーじゃねーか」
「よかない、風邪引く。ほんっとにもったいない!あの寝室」

あの話の続きを教えようか。そう、彼は決まってこう言うのだ。

『だから―‥



「だから、お前がいればあの部屋使うって言ってんだろ」

 

 


シリーズ化、なのか?
03/01/28  ×