メイキングライフル (8)

 

 

あの日、キスをされるもっと前に、想いは固まってたのかもしれない。


もう、目を見ることさえできずにいた。
ゴメンなさいなんてまぬけな告白をして、この 『大人の男』 はどう思っただろう。
それよりも何よりも、何であたし、言ってしまったんだろう。

解放された顔に、自らの指を這わせた。涙の後が冷たく残ってる。

ねぇ、何で何も言ってくれないの。いつもみたいに鼻で笑ってあしらわないの?
真剣に受け止めてくれてるの?どうして、何にも考えてないような顔してるの?



だんだん、恐くなってきた。
さっき体験した恐いとはまた違う恐怖感。足元がおぼつかないような。

言わなければよかった?
言わない方が正解だった?



そもそもどうして、想いを告げるってことを躊躇った?何躊躇したの?
だって、本気になったら、もう会えなくなると思ったから。
会ってもらえなくなると思った。
だけどあたしは本気になっていて、いつのまにかあなたのことを想うようになっていて。本気になったことを知られたらダメだと。知られてしまったら、篠宮さんの『楽しい遊び』は終わってしまう。本気になったあたしとは会おうとしないはずだと。


そう、悟ったから。

あなたにキスをされたあの日に。





どうしようもなかった。言うまいと決めていたのに言ってしまったのは。もう、苦しくて。あなたがあたしのことで困惑する姿なんて見たくなかった。
悪いのはあなたじゃなくて。悪いのはあたしで。だから謝ってなんかほしくなくて。

どうしようって気持ちと。
もどかしい気持ちと。
よくわかんない気持ちでいっぱいになって。

言葉になって出てしまった。





神様、もしも一つだけ願いが叶うなら。

今の言葉はなかったことに。
篠宮さんには聞こえなかったことに。


……あぁ、それよりも、
篠宮さんと出会う前にあたしの時間を戻してください。


苦しくて辛くて、死にそうです。
………今、消えてしまいたいくらい。















「今更か?」

沈黙を破るように篠宮さんの声。低くて痺れるような。

「今、さ……ら?」

案外遅かったな、と。


反則。

優しい笑顔は反則。


「なに……?」
「もっと早いうちに言われるのかと」
「………し、しの……」
オレは興味ないことには関わらない主義なんだ。煩わしいことにも関わりたくない。だけどお前のことは別だった。そんな答えじゃ不十分か?
そう笑って。優しく笑って。自分よりも遥か下にある頭に。唇を寄せた。

























〜。カラオケ行こーじぇ」
「んー。今日は無理」
放課後の教室、の誘いをうわの空で聞き、断る。
「……デェトかっ」
「うぇ」
「デートかてめぇ!シノミーか!」
「ち、違うし!何がデートだ!バカ」
「でもシノミーなんだろぉよ!ぎゃー!友情より愛取りやがって!」
あんたに流れる血は緑だー!わけのわかんないことを叫んでポッキーの空箱やら消しゴムのかすやらを投げつけてきた。
「イッテ……ー‥あんたねぇ…」
「もーういーよ。バァカ」
ガキのようにイーッってやって、楽しんでオイデ。言って笑った。
「……おう」
チキショーチキショーと呪文のように繰り返し、カバンに荷物を詰める

そんなを見てふと思う。

「……ね、ねぇ」
「あーん?」
「……、あんたさ」


エンコー、やめな。


「………………」

今、言葉に出てた?言えてた?

「……どして?」

言えてた。

「ど、し……やめた方がいいと、思った、から……」
あたしは、あんたの友だちでありたい。
「後悔する、本当に……」
「………まぁ、そーかも」
……」
「今日はぁ。おうち帰って寝ようかな〜」
最近ちゃんと寝てないしねぇ。笑ったの顔は少し複雑で。
でも、あたしはこれでいいんだと思った。ずっとずっと、友だちでいたいから。失いたくない友だちだから。やめた方がいいなら、そう言うべきだと思ったから。










「偉い偉い」
「バカにしてんな?シノミー」
「降ろすっつったろ」
「……スンマソン」
の前でシノミーって言ってるから出てしまうわ。気をつけなくては。
「今日、飯」
ドコで食う?短く言って信号待ち。
「へ?」
「ドコ?」
今まで何も聞かないで勝手にどっか連れてってくれたくせに。何で聞くかな。
「ドコって……」
「飯。食いに行くかー‥」

か?

「か?」
「オレん家で食うか」

……シノミー‥の、家?

「……っは?」
「どーせ」
家もバレタことだしその方が楽でいい、煙草に火をつけて変わらぬ信号を見続ける。

「あたしご飯作れない」
「わかってる。オレが作る」
「わ、わかってるって、失礼な。……作れんの?」
「失礼だな」
「……それじゃあ、楽じゃないんじゃ……」
「送らなくていいから楽」


………何ですと?


「な、何がっ?」
「帰んの?」
「帰らないのっ?」
「明日土曜」
「知ってるし!」
「休み」
「ダレが?」
「お前が」
「し、しのみ‥」
「午後から」
重役出勤。そう言って、青になった信号を走り出す。





ふと、ラジオからニュース。

『シノミヤグループの所有する……』

……ヤダね、あたし。今の反応見られた?
『シノミヤ』って言葉聞いただけでドキドキする。まるで恋する乙女じゃないか。



「は、はい?」
「お前、携帯のオレの名前」
「名前?」
「間違ってる」

間違ってる?

「………偽名?今更かっ?」
「違う違う」
漢字が間違ってんの、と。
「漢字?」
「浩太はあってるけどな」
「シノミヤ?」
「そう。……篠の宮じゃなくて、四に之に宮」
「よんにゆくにみや?」

メモリの名前を変える。

四に之に宮、か。


【四之宮浩太】


大層偉そうじゃありませんか。


………四之宮?


あたし、テレビは大好きで、気づいたらチャンネルそのままニュース見ることもあるわけで。最近、この字よく見る。そーいや今のラジオだってさ。


『四之宮』?



「四之宮……って」
「あ?」
「し、四之宮って、……違うよね?」
「何が」
「………重役出勤」
「………あー‥、肩こった」

詳しいことは飯のときにでも話そうか?そう、四之宮浩太は笑った。

 

 


終わりました、終わらせました。管理人の自己満足で書き溜めたものです。
02/12/24  ×