| メイキングライフル (2) |
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昔、母親に言われた。 『知らないオジサンについていってはいけません』 通されたのはでっかいホテルのでっかい部屋。上階ってさ、すっげぇいい部屋なんじゃない?長い間エレベータ乗ってたんですけど。 「ね、ねぇ、オジサン」 「32だ」 オレはオジサンじゃない、そう言ってソファに腰を下ろした。 立派なオジサンなんですけど。10以上離れてりゃあ尚更。んーでも、確かに外見はオジサンには見えないんだよね。20代後半くらいに見える。 「カズヒコ、君じゃないんだよね」 「偽名」 「は?」 「君はオレに偽名を使おうとした」 「使えなかったですけど」 「オレのことは何て呼んでもいい」 オジサン以外ならなと付け加えて上着を脱いだ。 ところで、あたしは何をすればいいの?やっぱこれってエンコー、っての? ……しなきゃいけないの? 「えーと、オジ‥、……阿部さん」 「アベ?」 「何とでも呼べって言ったじゃん」 なんとなく、阿部さん。呼びやすいっしょ。 「阿部さん、あたし、阿部さんとするの?」 「何を?」 「何って……」 立ち尽くす自分を見る目が面白がっているように見えた。 その目に苛立って言葉を荒げる。 「何だかんだでエンコー目的なんでしょ?することっつったらいっこじゃん」 ってゆーか拉致だ!帰っていーんだって、あたし。 「訴えると確実に阿部さん負けだよ。だから帰して」 「オレが?援助交際しようとしてたのは君だよ?」 「………帰ろうとしたんですけど」 「君の友達はしてるんだよね」 ちゃんて言ったっけ?目を細めて、くくっと笑った。 「………っ、何っ……」 「君の友達のちゃんは援助交際をしてるって」 「ち、違う!アレはエンコーじゃなくて!」 「『エンコーって響きが嫌いみたい』 って。聞こえたけど?」 このオヤジ。脅してる。マジ?何?ウソでしょ? で脅されるあたしもあたしだけど。友だちは大事なんだよ。 「………阿部さん」 「ん?」 「は関係ないから」 「そう」 「あたしは……どうしたらいいの?」 「君の嫌いな援助交際をしようとしてた子を庇うんだ?」 「エンコーとか関係ないし。、あたしの友達なんだもん」 そう、友だちだ。 「だったら、君さ」 その子に援助交際やめさせるべきなんじゃない?阿部さんはそう言った。 「それが友だちだろう?」 嫌だった。 こいつの目、嫌だ。 ムカツク。 そんなのわかってるし。ついてったあたしもバカだと思ったし。オヤジから金貰ってるもどーかと思うし。……やめさせた方がいいって。そんなのわかってるし。友だちだ友だちだって言っても、何もいえない自分が情けないって。 そんなのもわかってるし。 こいつはそれを遠まわしに言ってる。 「うるさい」 「…………」 「何であたしが見知らぬオヤジにそんなこと言われなきゃなんないのっ?」 「その通りだと思ってるから怒ってるんだろ?」 「………るさぃっ」 「どうして君まで援助交際しようと思った?」 「関係ない」 「嫌いなのにね」 「オッサンには関係ないって言ってるじゃん!」 何で? エンコーしようとか思った? 雨で、傘ないなーって思って。気分がジメジメしてて。 ……別れたばっかなのに。 あいつに女が…… 「………ちゃん」 「か……ん、けぇ……、ない……」 二股掛けられてて、あたしは用無しになったこと。 いらなくなったから捨てられたんだってこと三日前初めて知った。 友だちとか言ってて、援助交際してることなんて知らずに。 知ってもやめさせることのできない自分に。やめさせようとさえしなかった自分に。腹が立って。 「……あ、たし、は………」 前が見えなかった。わからなかった。 最近、映画やドラマとかでしか泣かなかったから。本当に泣く意味をわかってなかったように。泣いてることすらわからなかった。 わかったのは、 阿部さんがたくましくて、体温が温かくて、煙草の匂いがして。 腕が優しく包んでくれてることだけだった。 「あ、オハヨ」 「オハヨー」 「おー、。ハヨ」 「あれぇ?オハー。」 「オハヨーサン」 遅刻しないで来るなんて珍しいね。声かけてくるヤツがみんなそう言う。失礼な友人たちめ。まぁそーなんだけどさ。 「オッハよーう。」 「あー、」 オハヨ、と笑うあたしの手から自分のマフラーを取った。 「昨日さー、結局二万だったよーう」 今度は一緒に言ってね?そんな言葉にあたしはやっぱり何も言い返せなくて、ただ曖昧に笑うだけ。 下駄箱で靴を履き替えてると、『年下のカノジョ』といちゃつくクラスメイトの姿が見えた。一週間前まであたしの最愛の人だったヤロウさ。 「あー、松田じゃん」 何か言ってやれー、とかあたしの腕をつつく。 「えー、別にいーし」 興味ないよ、口では言うものの本当は気になる。捨てられた時点で松田への想いなんて冷めてはいるけど、気にならないって言ったら嘘になる。 「も人がいいったら〜」 「何がー?」 「あたしだったらブッとばす」 「あっはっは。あんたがゆーとシャレんなんねー」 「シャレじゃねーって」 松田なんてヘボじゃん、とジャブ。 「ボクサー」 「シュッシュッ、ってアホめ」 「あはははは」 〜♪ 「おや」 「あー、わたし」 「カノン好きだねー」 「好きよー」 カバンの中から、トナカイマスコットのついた携帯を出した。 表示されてる名前は、 【篠宮浩太】 「しのみやこーた?」 誰それ?ニュウメン?の言葉に笑って、そのまま携帯をしまう。 「え?出ねぇですか?」 「んー。いい」 シノミヤコウタ。 「ちゃん」 「……っ、によ……」 腕の中で泣きながら、気安く名前呼ぶなと思ったけど言えない自分。 「シノミヤコウタ」 それがオレの名前、阿部さん……シノミヤは言った。 「シノ……」 「シノミヤ」 「………っ……」 「それと」 泣かせるつもりはなかったんだ、ゴメン。気まずそうに頭を撫ででくれて。 「送ろう」 何も言わないでそのまま、落ち着くまでそこにいて。 落ち着いたあたしを送ってくれた。 「誰ダレ?シノミヤって」 「………昨日知り合った人」 「お前ねー。あたしをほったらかしてさ」 拉致られた、とは言わないでおこう。 あの後、家まで送ってもらった後、なぜか番号を交換。 携帯取られて番号盗まれただけなんだけど。 今のは初電話です。 昨日も今日も、電話きたら出るべき?とか思ってて。 実は朝も、着暦あったらどうしようとかそんなこと思って。 今日電話きたらさ、学校だったからって、それが理由で……ね。 だって、出るの何か戸惑う。 放課後?夜?電話きたら出なきゃいけないのかな。 昨日送ってもらって、帰り際に言われた。 「ちゃん」 「……何ですか」 「オレとさ」 「……………」 「少しつき合ってみる気ない?」
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