| メイキングライフル (1) |
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外は雨だ。秋の長雨ってやつだろーか。 彼氏と別れた。気分が重い。 「えー?カラオケだけならオッケ。うんそぉ」 マジでー??が驚いたように大声を出す。 シェイクは美味しくない。 勝手にのポテトをつつくけど、気にしないみたい。 「あー‥」 「ん、ちょっと待って」 そう言って電話を続けた。 帰りたい。帰りたいです。 今なら入り口に傘が。あれビニィルだからパクって帰れる。 「ー」 「んー。電話シュウリョ?」 「終了」 「帰っていいかな。あたし」 いつもだったらいいよって。ばいチュー、とか。わけわかんない挨拶で終わるのに。誰か遊んでくれるヤツ呼ぶわーって。 なのに今日は違った。 「あー、お願い」 今日だけ付き合って。顔の前で手を合わせて可愛く笑う。 大抵の男はコレにイチコロでさ。 「何?遊んでくれる子いないか」 「違う。……カラオケ行かない?」 あぁ、そー言えば、今電話でカラオケがどーとか話してたなぁ。 その電話。出るとき確か……カズヒコ君、とか言って出た。 「カズヒコ君?」 「そーお。ね、行こう?」 知らないし、そんな男。 もしや例の病気発病? 「紹介類じゃないよね?」 さん。彼女は世話好き。自分の仲介で男と女がくっつくのが嬉しいみたい。それが例え自分の彼氏でも。何かおかしい、この子。 ……でも、イイ子。 「違うよー。お小遣い稼ぎ」 オコズカイカセギ? 「は?」 「カラオケ。2人で行けば5万くれりゅ」 「オヤジ?」 「いえしゅ」 おいおいおい。チョット待ちなさいよ。 それっていわゆる、 「エンコー?」 援助交際?ウソでしょ?。 「悪く言えばね」 大丈夫、カラオケだけだし。カズヒコ君は友達だもん。何回も会ってるしさ。 また笑った。 「五万だよ?半々で分けよっ。そしたら携帯最新のに換えられるじょー」 その言葉に乗ったわけじゃない。 でもさ、何か最近イイコトなくて。むしゃくしゃしてて。 雨だし。 彼氏と別れたし。 だから店を出たんだ。入り口の透明のビニ傘パクって。 と二人、待ち合わせの駅へ。 背の高いオヤジ。スーツで。今日は黒い傘。 「………、早く」 あぁ声に出して言うさ。独り言とも取られても全く構わないさ。 こんな雨の中、誰も聞いてないって。 トイレに行ったままの。オヤジの特徴を聞いたはいいけど全部同じに見える。みんなスーツで黒い傘で。……唯一、背の高いオヤジはいない。 「やっぱー‥やだなぁ」 エンコーってさ。響き悪すぎ。 果たしてその世界に足を踏み入れていいものか。 やっべ。ちょっと怖くなってきた。 それにしても遅いな、。……もしかして、逃げた?あたしを置いて?オヤジの餌?ややや、はそんな子じゃない。少なくとも、小学校からの付き合いであるあたしをさ。オヤジの獲物にするほど腐った女じゃない。 「でもおせぇ」 ………雨が嫌だ。 うっとおしい。 煩わしい。 気分がジメジメしてる。 あー‥、おかしい。 感傷に浸る女になっているわ。 泣きそう。 「………っきしょ。あー!おっそ……ぃ……」 ガッと顔を上げた。 ら、いた。 『とねー、背は大きい方でぇ、会社帰りだからスーツ。あ、今日の傘黒だって』 周りより抜き出た頭。スーツ。黒い傘。 いた!いた!何かキョロキョロしてるし! でも、ってゆーか。あれ、オヤジ?オジサマ?いや、おじさんなのか? まぁいい。今日は帰ろう。 あのオヤジに、によろしくって言って。 ん、別にいいよね。 オヤジに近づく。 「おじさん」 ………呼んでるんだけど。 「ちょっと?おじさん?」 「……?」 自分を指差しながら首を傾げた。 「そう」 「……おじさんって」 「カズヒコ君でしょ?」 あたしの友達なんだけど、そう言って見据える。 「悪いんだけどさ、やっぱ向かないってゆーかさ」 「向かない?」 「んー、多少なりとも罪悪感っての?」 エンコーって響きが嫌いみたいでさ、言いながら所在無い手を頭に。 「あ、でも、カズヒコ君とが悪いことしてるとかじゃなくってね」 何となく、あたしはしたくないだけなんだわ。ゴメンねと言って、預けられたのマフラーを渡す。 「今トイレだから。……にも謝っといて」 何も言わないでただあたしを見るカズヒコ君にバイバイって言って、 駅の中へ向かおうと。 そしたら、急に手を引かれ。 「えっ、何?」 「オジサンが送るよ」 「は?い、いいよ。来るよ?」 「は帰った」 「………へ?」 「だから送るよ」 が帰った?何言ってんの、カズヒコ君。 「ちょ、待って!」 「いいから。おいで」 カバンを人質にされたもんだから。後をついてくしかなかったんだ。 黒い傘はFOXだった。 送ってくって言うからさ、やっぱ車なんだろうって思った。そしたらあたし、助手席?とか思ったんだけど。後部座席に深々と座ってる。 しかも、 隣にオジサン座っちゃってる。運転してるのは知らないおっさんで。 ってゆーか。車が高級車なんですけど。傘もFOXだったし。ねぇ、こないだテレビで見たんだけどさ。FOXの傘で三万五千円ってやつ。それに似てる、あの傘。 「で?」 オジサンの低い声に思わず体が震えた。 コワイっつーか、威嚇的っつーか。何だろう、痺れる声。 「君は?」 「は?あたし?」 「君の名前」 「」 「上」 「……」 はっ。もしかして、ここ、偽名使った方がいいとこ?? 「や、違う!キャ、キャサリン……、じゃなくて、えーと、みみ、観月ありさっ」 「ちゃんね」 「……………はい」 言わないといけないことがあるんだけど、と。カズヒコ君が言いかけた。 その時、 〜♪ 「………あっ」 携帯鳴った。着メロはカノン。表示相手、は。 【】 ………っ! ピッ 「っ?」 『あー、ー?どこ?』 「どこ?じゃないよ。あんた人嵌めて何言ってんの」 そんなヤツだとは思わなかったとため息をつくあたしに、ハァ?何ぶっこいてんの?は言う。 『トイレから戻ったらあんたいないしさー。和彦君も知らないって言うしー』 「………だから……って、え?」 カズヒコ君? なら、えぇ今、あたしの横に……。 『とりあえずー、今日はいっからさ。マフラー明日返してねん』 「ちょ、待って!!」 『あーん?』 「今、誰といるの?」 『誰とって。和彦君とカラオケだよ?今から入んの』 「…………え、じゃあ……」 あたしの横に居るのは誰? ばいチューと。切れた電話を見つめる。 「……………」 思考回路を落ち着かせよう。 じゃあ何か、あたしは今マジで全く何の繋がりもない赤の他人の車に乗って? 「ちょっと!ねぇ!あんた誰??」 ギッと睨もうとしたけれど、そうもいかず。何か変な目つきになってんだろーな、とかちょっと悠長に。 「カズヒコ君ではないよ」 表情を作ることなく、視線だけ向けられた。 何だ、この人。ムカツク、コワイ。 「な、何?拉致ってんの?」 「さぁ」 そーいや家までの道とか教えてないのに車走ってるし。 「家に……」 「途中で引き返したみたいだけど」 エンコーしようとしてたんなら、少しオジサンに付き合ってくれないか、それだけ言って、面白そうに少しだけ口端を上げて笑う。 「………あ、たし……」 逃げたかった。だけどもう、遅いように思われた。
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