| 待ち人来たれり |
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君待つと 我が恋ひをれば 我が宿の すだれ動かし 秋の風吹く ピンポーン‥ 「あ」 一人暮らしも、そこそこ慣れてきました。 「はいっ!」 開けた。ピンポンってインターホンが鳴ったから開けたのよ。 「あ、………っと?」 「さんですかー?」 「は、はァ」 「書留です。ハンコかサインお願いします」 「あー、はいはい」 書留なんて、紛らわしい。おかんめ、今日に限って余計なことを。いやいやいや、全然有難いんやけど。 「はい」 「はい、こちらになります」 「あ、ご苦労様です」 背を向けるお兄さんを見ながら。いえ、その先の道を見ながら。少し見つめたまま、ドアを閉めた。 チャリン‥ あ、自転車のベルの音だ。 グオングオン‥ 隣の部屋の洗濯機の音。 カチカチカチ‥ 部屋の時計の音まで。 時計?今何時よ。 「まだー‥10時45分?」 さっき電話きたのが10時半。 あと三十分位したら着くって。………まだ十五分しか経ってへん。 長い………。 タン、タン、タン、 あ、誰か、階段上ってくる。 もしかして、 ピンポーン‥ 「来たっ?」 早くない?もう書留なんてオチじゃないよね。 ガチャッ 「えっ」 「こんにちわー。新聞取りませんかー?」 うっそ。一番避けてた新聞屋が来ちゃったよ。しかも出ちゃった。 「えーっと、」 「今なら洗剤もつけますから」 「いや。いいですー」 「大学生?」 「は?」 「だったら新聞くらい読まなきゃダメだよ」 「いや、だからいいですって」 「社会情勢とか、ね?」 ね?ちゃうわ。 「いいです。大丈夫ですから」 ドアを閉めようと。そしたら体を割り込ませてきて。 「ちょっと、」 「三ヶ月だけでいいから」 「結構ですって言ってんでしょ?」 「いいじゃねェか!三ヶ月くらい!」 はァ?何このオッサン逆ギレしてんの? 「いらん言うてるやろ!」 「いいからサインしろよ!」 「ちょっと、もう、」 ギッと睨んだその後ろ。 「うあ」 「あ?」 「何しよん」 烈。 「お前友だちできひんからって、オッサンと仲良うしてどないすんねん」 「アホか。仲良うなんてしてへんわ!」 「せやったら何?」 「新聞屋さん」 「………取んの?」 「いらん」 「いらんて。オッサン」 大きな男に圧倒されたのか。烈の視線が危険だったのか。それは新聞屋のオッサンにしかわからないけど。 「あ、そうですか。じゃ、気が向いたらまたお願いします」 「はいよー。暑いけど頑張りやー」 素直に帰っていった。 「お前なー」 部屋の中、我が物顔で座ってる男にコーヒーを。 「何よ。あー‥都会は恐いわー」 今年、二人揃って上京してきた。最寄の駅まで15分。そこから電車で、烈の住んでるとこまで15分。30分の距離。 「誰かれ構わずドア開けんなや」 「あんたかと思ったから開けたんやろ」 「あァ?三十分かかる言うたやん」 「そーやけどー」 そうだけども。 待ってたら、全部の音がそう聞こえたのよ。 郵便の現金書留も。チャリンコの音も。洗濯機の音も。新聞屋が来た音も。 全部、烈が来た音かと思ったの。
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