恋調べ

 

 

「あ、乙女してもーた」
「あん?」

豊玉高校、図書室。ゆらゆら揺れる二つの頭。
文系教科学年上位、
文系教科常に赤点ギリギリ、南烈。
レッツ・お勉強タイム。
烈が問題集を解いている間、暇だったので国語辞典を開いていた。暇だから国語辞典というのもどうかと思うが。国語辞典ならいつでも読むのをやめられるから、目を通していたのだ。

「誰が乙女じゃ」
「わーたーしー」
どーでもえぇやろ、はよ問題集やり。と赤ペンでノートに 『阿呆』 の文字を書く。舌打ちをして問題を解き始める南。
は国語辞典にもう一度目を落とした。

【恋】
特定の異性に深い愛情を抱き、その存在を身近に感じられるときは、他の全てを犠牲にしても惜しくないほどの満足感・充足感に酔って心が昂揚する一方、破局を恐れての不安と焦燥に駆られる心的状態。

「ふーん……」
長い説明。何やろ。長すぎて話にならん。
「こーいとゆう字を〜」
「ヤカマシ」
「……へーい」
辞書で引いてしまったのです、恋という字を。あの有名な歌に倣って。
でも、自分が目の前の男に抱いてる感情とは。なーんか違って。もちょっと簡潔に。こんな長ったらしい説明は好かん。

「あ?どこ行くん」
「辞書持ってくる」
「あるやん」
「別の。これ微妙やねん」
国語辞典なんぞどれも一緒やないか、と思ったが。言うとまた、何か言い返されそうだから言うのをやめた。席を立ち、辞書コーナーへ向かう。
自分が席へ持って言ったのとは違う出版の国語辞典。パラパラとめくれるページ。

【恋】
好きな相手と一緒にいたいと思う気持ち。

……おぉ。これや。簡潔や。えぇわ。
さっきの長々書いてあるのよりよっぽどいい。
何かちょっと嬉しくなり、席に戻った。開いてあったはずの国語辞典が閉じられている。

「烈サン」
「あ?」
「閉じた?」
「おぉ、わからん漢字あったから。借りたわ」
「………閉じんなや、ボケ」
「ボケゆーな」
このアホ、と思いながら正面の席に腰掛け、国語辞典の見比べを始めた。


恋。

をしてるのです、わたし。

目の前のこの男に。つき合って、もうかなりたつんだけど。今でもまだ一緒に居たいと思うから。やっぱり恋なんだろうな、って。思う、思った。
調べたら、そんな感じだし。


じーっと、の視線に気づいたのか、怪訝そうな目で見つめ返す。
「何ですか?」
「……何も」
「あー?」
「笑うから言わん」
「言えや」
「……………」
「気になっておベンキョでけへんわー、ボク」
「………笑う」
「笑わん」
じっと見られるもんだから、小さく言った。
「こ、こーいとゆう字を〜‥」
「それはもうえぇ」
「違うん。調べたの。辞書で」
「……アホがおる。暇人め」
「うぅぅ」
「何て書いてあったん?」
「……好きな人と一緒にいたいと思う気持ち」
「わっかりやすー」
苦笑いした南は、さっさと問題集に目を落とす。そんな南に、独り言のつもりでいった言葉が。

「でも、烈に恋してんで?」

聞こえてしまったらしい。

「……あほう」
「……えっ」
「こんな時に可愛らしいことい言うたらあかん」

机を挟んで座っていた南の体か、それを乗り越えて。手招き。

「?」

ニコニコ笑って。手招き。

「な………んっ」



誰が、すると思いますか?こんな公衆の面前で。そりゃあ確かに、端っこの席だけど。だれが、そんな………、

キスされるなんて。考える?




「ん……バッ‥」
大声で叫ぶのは憚られる場所。
「……しー、やで。ちゃん」
「んの……アホ男がっ」
唇を離した後、ニヤニヤ笑いながら自分の前を片付け始めた。
「な、何?もうおしまいにすんの?」
「それどころじゃなくなってん」
「はっ?」
「知っとる?」
「何を?」
カバンに詰め終わり、挟んだ机を回り込む。
「帰ろか」
「……何を、知っとる?なん?」
「せやからな」
腰にまわした腕に、力を込めた。

「俺も恋してんねやん?」
「……一緒にいたいん?」
「まぁ、そんなトコやな」
「……たまにはえぇコト言うんやね」
「たまには、は余計や」

図書室のドアを開け、誰もいない廊下。

「漢字辞典は?」
「へ?」
「調べたん?」
「国語だけやけど」
「そーか。せやったら教えたるわ」
「は?」
「恋っちゅー字は、『下心』 なんやで」

その言葉の語尾に、ハートがついてたかどうかは。
二人にしかわからない、とゆうことで。

 

 


ぷっ○もに?
02/09/15  ×