ラブリープリティべいべー

 

 

「帽子かぶれ」
「は?」
「帽子」
「何言ってんの?」

髪を切りました。バッサリ、というわけでもないけどバッサリ。頬まわりもスッキリして良い感じです。と、思ってました。

は眉を顰めて怪訝な顔。自分を家の前で迎えてくれた彼氏に対しての顔じゃない。だけど冒頭の会話が交わされたあとじゃどうしようもない。
髪の毛を切って、それを見せて、そんでもってあのセリフってどーいう意味?
帽子かぶれって意味がわかんないから。

「マコちゃん」

「帽子って何?」
「オラ、かぶれ」
ボスッと。いつもマコトがかぶっている帽子を頭に乗せられた。
には未だ彼の行動が理解できない。いや、ちょっとした意図を掴んでいるのかもしれないが、彼女のプライドや彼を信じる気持ちがそれを頭の端にも出していない。
「マコちゃ、」
「配達行くぞ」
「……うん」


彼の家である『真島フルーツ』。
デートは専ら店番中のお喋りや配達だったりする。元来話すことすら「メンドクセー」とのたまう彼だが、はそんな言葉にも怯まず、マコトを自分のペースに引きずり込む。引きずり込むというか、元は波長が合うのかもしれないと思うのはこの頃。

駅前で一目ぼれしたマコちゃんとどうにかお友だちになろうと悪戦苦闘。
お友だちをすっ飛ばして彼女の位置を勝ち取ったまでの経緯は、簡単に言えば過ちと黙される酒の上でのそれにあった。根は責任感の強いマコト、本当は心配性だったり真面目だったりする。そんなことがあったら迷わず選ぶ『恋人』という関係。今考えれば最初から合ってたのかもしれない、波長。

だけど最近気づいたのは沈黙の空気にいても大丈夫だということ。真島フルーツの店番中、マコトが雑誌を読んでいる隣で、はボーッと店先を眺めていたりする。それがには楽で、マコトにも楽だったりする空気。
喋りたい時、はマシンガンのように一方的に話をすることが多いが、大抵マコトが興味を持つ内容を口にすることがほとんど。
声に出さなくてもわかる、二人でいるとしっくりくるってことが。


「てゆーかね、マコちゃん」
「あ?」
「帽子暑い、取る」
「かぶってろ」
そんな二人の間で久々に気持ちが疎通しない話題が目の前に存在した。
ここに来る前に切ったばかりの髪の毛。は借り物の帽子からはみ出た毛先をピョコンと摘む。配達用の白い軽ワゴン車はガタガタと年季の入った音を立てていた。
「ねぇ」
「帰ったら見舞い用のヤツ頼むな」
「あー‥うん。てゆーかマジ、暑い」
「バイト代欲しい?」
「いらないよ。てゆーか帽子脱、」
「ぐな」
「……あのねぇ、」
似合わないなら目ェ見てそー言いなよ!理由も言わずに暑っ苦しい帽子をかぶせる男に大反発。バシッとの平手が当たったのは、ちょうど車のクラクション。傍迷惑な騒音が閑静な住宅街に響き渡った。

「バカかお前!」
「バカ言うな!遠まわしすぎだしマコちゃんは!」
「あァッ?」
「似合わないならそう言えば!」

髪切ったばかりの女に帽子を勧める理由はひとつ。
その髪型があんまり似合ってなかったってことでしょう?

「あーイヤ。マコちゃんのそーゆーのイヤ」
「イヤ?……イヤーぁ?イヤってナンだ」
「イヤなの。イヤ。遠まわしてんのがやたら傷つく」
「似合わねーなんていつ言った?何時何分何秒」
「小学生かお前は!」
「似合わねーなんて言ってねェっつんだよ」
「じゃあ何?何が気に入らないの?」
「だ、お前、アレじゃん、」
「何。アレって何」
「だからーァ、……顔丸見え…?」


………は?

カオマルミエ?

かおまる、みえ、さん?


カオマルミエ。



「顔丸見え?は?」
「丸見えじゃん。……顔が」


何でダメなの?


「何っ?あたしそんなブス?一緒イヤ?」
「ンなこと言ってねェじゃん」
「じゃんじゃんウザイし。てゆーか意味プーだしっ」
「顔丸見えてんの困んじゃん?」
「疑問形されたって困んのあたしだよ。ブスなの?何?」
「だー!色んなヤツお前の顔見んだろ」
グッ、って、思わず息を詰まらせた。


あー?

あは?

何?

可愛いこと言われた。


「あたしの顔なんかみんな知ってるし」
「じゃなくて。前ここら辺隠れてただろ」
ここら辺、での頬に手を当てる。は首を引いて上目遣いで睨みつけて。
「隠れてたがどーしたの」
「ここ、隠れねーのってー、」
「隠れ、」
「オレと…してる時だけじゃん」
「………バッ、カ、ですかっ?」
「つーかオレだけ見てたモンを今更他のヤツに、」
「ビックリした。マコちゃんらしい結論でビックリした」
額に指を当て、フラフラと手を靡かせた。

こんなバカな彼氏は初めてだ。
こんなバカな人は多分初めてだ。


変な独占欲。



「マコちゃんさ、」
「帽子かぶれ」
「……えーと、……わかった、けど」

バカが愛しいな、笑えてくるな。

「あ、」
「何」
「オレと二人だけの時はいい」
観念したようにかぶろうとするの手を止める。二人の時はいいからよ、もう一度囁いて。
「……そーゆー、」
「あ?」
「変な独占欲抜きにして、この髪の毛どう?」
「変とかゆーなよ!」
「だ、だからー、」
「可愛いじゃん」
「あぇ?」
「思った、最初。店来た時。可愛いじゃんって」
「あー‥っそ」
「そう」
頷きながら言う、だからオレ以外の前では帽子かぶってろ。子どものような独占欲を持つ大人に、少し笑ってやった。

早く配達終わらせようね。

 

 


マジママコトー。チーン。
04/12/26  ×