依存症−シンメトリック

 

 

この時間なら部活かと諦めた、午後七時。
この時間は電車かなと諦めた、午後八時。
ストーカーの如く彼氏に電話をかけまくる。いつもなら絶対出るのに、何で出ないの。それどころか毎度毎度話し中ってどーゆーことよ。
それとも着拒っ?(ヒィ!)

携帯の切るボタンを押した。

「着拒だったらどうしよう」
そりゃ一日一回は必ず電話をしてしまう、あなたにゾッコンラブ(死語)な私ですけど。そんな私の行動を受け入れていたはずよね、宏明。
「だったら何で出ない…」
気持ちも沈むってもんです。豪華客船の如く沈んでくってもんです。
最近忙しいとかで全然会えないじゃないですか。学校違うからすれ違うなんてこともないじゃないですか。宏明は放課後部活で遅いし、待ち合わせて帰ることもないじゃないですか。

あなたに会えないと死んでしまうわ!

ごめんウソ、死なないけど。でも結構依存気味なので、全然会えないのは辛いです、正直。時計の針は九時を回りました。
もう出るよね?いい加減出るよね?再度短縮番号を押して、通話ボタン。

プッ

『プー‥プー‥プー‥』

お掛けになった電話番号は電波が届かない場所にあるか‥って機械的なオバサンの声の方がなんぼマシだと思ったかわかんない。
気づけば部屋を出て、どこ行くのと居間から声を上げる母親を無視して、体育の時間に履き慣れたスニーカーを履いて、夜の町に飛び出す自分がいたんです。










脇腹が痛い!悪かったね悪かったね悪かったね!どーせ私は運動不足です。
ってゆーか宏明の家行ったところであいつはいるのかって話だけど!もしかしたらどっか別の場所にいるかもしれないけど!そんでもって私からの電話が邪魔なシチュエーションなのかもしれないけど!
そんなんだったら号泣だけどさ!
でも、号泣覚悟でも会いたいんです。宏明さんに会いたいんです。

何があっても、会いたい。


「っ、うぐ…」

久しぶりの全力疾走は、激しく体力を消耗する。二駅分を走ろうと思ったけど、結局そんな体力もなく、駅まで走って電車に乗って、それからまた宏明の家まで走った。明日は筋肉通だろうなんて、元来なら浮かぶその思考も浮かばないほど、の頭の中は越野でいっぱいだったらしい。

ピンポーン‥

玄関前で息を切らしながら、インターホンを震える指で押す。恐いから震えてるわけじゃなくて、走ったからこんな感じですいません。

「はーい」

聞きなれた声とともに玄関が開いた。

「あら」
「あ、あの、こ、ん、ばんわっ」
ちゃん。どうしたの」
息せき切ってる彼女に驚いた女性は越野宏明の母親。
「あは、ちょっと、えー、っと、‥宏明くん、いますか?」
まともに顔が上げられないぞ、ちくしょう。ごめんねおかあさま。礼儀のなってない子でごめんね。今は心臓の苦しさと脇腹の痛さでそれどころではないのです。

「宏明なら、さっき出てったけど」
「えっ」
「買い物かしら。ついさっき」
「……マジで……」

死にそうです。この苦しさをどうしてくれるんだ。

上がって待っててというおかあさまの声を遠慮がちに交わし、夜分遅くにすみませんでした、は言って背を向ける。
背を向けた途端に、苦しさが津波のように押し寄せた。これが体力的な苦しさなのか、それとも精神的な苦しさなのか、もう私には何もわかりません。

脳に酸素は回らない。



?」
「………えっ…」
「あら宏明」
「ひ、ひろ、」
「何やってんだよ」
「っ、そ、それ、こっちのセリフでしょっ、‥ゲホッ!」

う、器官詰まった!かっこ悪い!

「宏明」
「あ?」
ちゃん送ってきなさい」
「は?」
「は、じゃないでしょう?」
母親の鋭い眼光に一瞬たじろいでを見る。
「何があったか知らないけど、」
こんなに走って来させて、母さんだったらブン殴ってるわ、そんな母親、越野家では爛々無敵。
「安全によ。人様のお嬢さんなんだか、」
「わかってるよ」

さて、彼女を家まで送り届けましょう。










交わらない言葉。沈黙の中、さっき走った道を歩いて戻る。の肩はまだ少し上下して、隣に並ぶ越野は伺うように見た。
「あのー」
「……………」
「お前、何、何かあった?」
「……………」
その言葉を耳に、は歩きながら越野の背中を叩く。
「‥ヅッ、」
「こっちのセリフだって言ってるでしょ」
「意味わかんねーって。……オレのセリフだ、今回は」
「私のなの!あんたがいけないの!」
「はァ?お前だよ。お前電話しても出ねーし」
「電話なんかきてないよ」
「したんだよ。全部話中だったけど」
「はぁ?」
「何怒ってんだと思ってお前ン家行った。さっき」
今日この道通るの五回目だと駅までの道のりを思わせた。
「拒否んなよ」
「拒否ってないよ」
「何怒ってたんだよ」
「何にも怒ってないよ」
「んじゃ何で電話繋がんねーんだよ」
「私だってずっと宏明に電話してたのに繋がんないじゃん!」
「あ?」
「………ちょっと待って……」

自分の携帯を取り出し、発信履歴カンバック。
越野に携帯を出させて、発信履歴カンバック。

「『19:04 』」
「『19:04 越野宏明』」

19:04。

「電話してるだろ?」
「……してるけど」
「部活終わった時にしたんだよ」

で?

「『20:15 越野宏明』」
「『20:15 』」

20:15。

「駅着いたから電話した」
「……うん」

で、

「『21:11 』」
「『21:11 越野宏明』」

21:11。

「お前ん家行く前に、」
「私だってしてるもん!」
「わかってるよ」
「何これ!気持ち悪い!」
「いやお前、気持ち悪いとかじゃなくって、」
「二卵性ソーセージ?危ない!却下!」
「あァ?」
「バッカじゃないの宏明!」
電話しすぎなのよとが喚くと、越野も返す、お前だって同じじゃねーか、ため息混じりに。
「同じ時間に電話してんじゃないわよ!」
「こっちのセリフだろーが!」
「本当バカ、何?エスパー?キモイ!」
「お互い様だろ」
泣きそうになって、嫌なこと考えて、いつも動かさない身体を限界まで全力疾走させて。

わかってるよ。

それは相手があんただからだってわかってる。

わかってるのよ。


「宏明!」
「何だよ」

ごめんねと大好きを、大きな声で言ってみた。

 

 


ながれーるあせもそのまーまーにー。
04/09/10  ×