| 堕つるる葉の行方 |
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神様。……カミサマ? いえいえ。ジンサマです。 「」 熱でもあるの?そう顔を覗き込んだのは同じクラスの神宗一郎。 覗き込まれたのは隣の席の。 神宗一郎君に恋する乙女な高校二年生。 神宗一郎君に恋する乙女なバスケ部マネージャ。 「ない、ですが」 微妙な敬語を口にする。 何ですか。あたしが勉強をしていたらおかしいと。あなたはそういう意味で今の発言を?………失敬な。 「んもう、神には関係ないじゃん」 「関係ないけど」 問い4の計算間違ってるよ。そう言ってから自分の教科書に目を通し始めた。うぐっと息を詰まらせ、はテキストを見る。 神に 「熱でもあるの?」 とまで言わせるほど、は勉強とは無縁。期末テストの日でさえ、わーい!テストの日は半日だわー!などと浮かれるような。そんな彼女が、たかが数学の小テストで張り切っていた。さて、どうしてでしょう。 それは三日前、職員室での会話が事の発端でした。 「〜、お前なぁ」 数学教師の前に立って苦笑う。そんなに数学教師は言う。お前はかけ算の時点で間違ってるんだと。 「八の段言えるか?」 「………八は難しいですね〜」 五ならなんとか。笑って言うに向ける呆れ顔は隠せない。 「でも先生。あたしの将来に数学はなんら関係ないかと」 「関係なくても高校ではやらなきゃなんないんだ、数学は」 「嫌いー」 「………頼むから毎回赤点は避けてくれよ」 「ご褒美あれば燃えないことも」 「お前はなー‥」 「だーってさ、」 バコッ 「…って」 「さっきから聞いてれば。何だお前は」 先生に向かっての口の聞き方がなってない、と。の頭上に教科書を振り下ろしたのは牧紳一。バスケ部主将。高校生に見えない高校三年生。 「牧さ……、痛い」 「おぉ、牧」 ちょうどよかった、そう言うと数学教師は牧にプリントの束を渡す。先週の模試がどうとか明日の小テストがどうとか。そんな会話がとくに耳に入るわけでもなく、つまらなそうにその場に立っていた。 「あのー、わたくしめは教室に戻っても?」 が、いいですかー?と小声で。そんなに2人は目を向ける。ため息をついた数学教師を見て、牧が提案を。 「文武両道でしたね」 「は?」 「先生。次回の小テストでが60点以下を取ったら部活禁止、もしくは退部というのはいかがでしょう」 「?!」 ちょっと待てよ、牧紳一!お前は何を言ってるんだ! 「まま、牧さん?何言ってんの?」 「部活禁止。、お前……あぁ。バスケ部マネージャーか」 「顧問の高頭先生にはオレから話もできるんで」 「あぁ、いい。オレから話をつけとこう」 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!何でそんなこよ勝手に決めんのさ!」 あたしの命より大事な放課後を!アレがなくなったら魂抜けちゃうんですけど!職員室でそうわめくに、牧と数学教師が。 「だったら、60点以上取ればいいんだ」 ボーダーライン オブ 60。 60点のハードルは、山のように高い。 「できた?」 「さーん……」 前の席の友人が後ろを向いて問いかける。 「八の段がわかんない……」 「は?」 「八の段が……」 ふしゅー、と机にうつぶせる。 危うい。とにかく危ういのだ。60点のボーダーライン。 「危ういのだ!」 xとyが何だっつーの!アルファベットは英語だろ!と。頭を掻き毟る。 「何か危機的状況だよね、今日の」 隣の席から聞こえる愛しいヤロウの声も。何だか寂しさ度がupしてしまう。 「あー、うるさくってゴメンね、神君。マジで危機だからさ」 60点以下取ったら部活禁止なんだって。の頭をポンポンと撫でながらが言った。 「え?」 「ね?」 「んー、牧大明神様の所為です」 うつ伏せになりながらブツブツと繰り返す。絶対呪ってやる、呪ってやる、と。 「……おしいな。」 「オマケ、してくれても……」 聞く耳を持たない数学教師を目の前に自分の答案を穴が開くほど見つめる。おっきく書かれた赤い数字。 『58』 「さ、採点ミスとか……」 「ないだろうな」 特にお前のは念入りにチェック済みだと言い。次の人の名前を呼んだ。 「何点だった?」 フラフラ席に戻ったに神が聞く。 「部活、禁止点」 へな〜、となりながら自分の答案を渡した。 「でも……、にしたら結構取れてるね」 「でも部活禁止」 闇の中だ。ここはもう暗闇なんだ。 は心の中で自分に言い、静かに目を閉じた。 「えっ!」 い、いいんですか?はそう言い、牧に飛びつく。 「うわっ、離れろ!」 お前は清田か!とを突き放す牧。 「だだ、だって、58点ですよ?」 なのに部活に出ていいなんて。あぁ、あんなに凹んだ意味がないじゃないの!嬉しそうに体育館を跳ね回る。 「牧さんありがとー御座いますー!!」 「うるさい女だな。……礼なら神にな」 「……へ?」 「あいつがオレんとこ来てな。にしたら結構いい点取ってるからって」 じ、神が?マジで? 「まぁ、オレも本当に部活禁止にする気は……、オイ」 牧の言葉が終わらぬうちに、は更衣室へと走り出していた。 「ジーンッ」 バタン、という音を立ててはバスケ部男子専用の更衣室を。そこには一人の男子生徒しかおらず。 「………ノブかよ」 神は?と聞くに、怪訝な目を向け。 「な、何スか、さん!」 オレまだ着替え途中なんスよ?言いながら、着替える速度を速める。 「ノブの着替え見たって今更欲情しないわよ」 それより神は?が聞けば信長は言った。まだ来てないっスよ。 「………教室かなぁ」 「あ」 「あ?」 「ん?」 の後ろに立ってたのは、背の高い男。探してた男。 「あー!神!」 目を輝かせたは、ありがとー!と向き直った。 「えっ、何っ?」 「牧さんがさー、お礼は神に言えってー!本当、ありがとねー!」 そんな二人を見て、じゃあ先行ってますから。信長はそそくさと更衣室を後にする。 「あのね、マジ、嬉しくて!ありがとう、神」 「あー、うん。でもさー」 ボス、とカバンをロッカーに。 「条件あるって」 「じょ、条件?」 「ん。次の期末。60点以上」 「………へっ??」 き、期末?期末テスト? 「小テストじゃなくて?普通の?」 「そう」 「む、無理!ウソッ?マジで?」 何で俺がウソつくの、と。神はを見て苦笑う。 「……無理でしょー、それ」 「平気平気。何だったらオレが教えてあげてもいいし」 え、いいの?がそう言えば、神は笑って頷く。ありきたりな例えだが、にはそれが神様に見えたり。 「何から何まで……」 「他ならぬの頼みだしね」 シュルシュルとネクタイを引き抜く音。あ、とは回れ右。 「お、お邪魔しました。ありがとう御座いました。それではまた後ほど」 一歩、踏み出した足。それを無視するかのように腕が掴まれ。 「まだいいでしょ?」 そう言った声は凄く可笑しそうに聞こえた。 「えぁ、あのう、ですね」 「ねぇ、」 の後姿に話しかける。互いの顔は見えない。でも、には見えてる気がした。笑ってる。絶対、笑ってる。 「何とも思ってない子のために、オレはここまでしないよ?」 その声は、後ろから聞こえたのではなくて。 すぐ耳元で。 如何にも楽しそうに囁かれた。
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02/10/17 × |