| カナアミ越しの事情 |
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付き合って日は浅い。でも、ツレ歴は最高に長い。 「不満たらたら」 「は?」 何だかねぇ。何だろうねぇ。この隔たりは。 「不満?」 「おう」 「何が?」 このフェンスがね。カナアミがね。オレとお前を隔てるコレがね。 「レギュラー‥」 「何だよ。わっかんねーヤツ」 「うるせェ。オカッパ」 オレは向日岳人クンの彼氏です。 オレの彼氏は向日岳人クンです。 男同士だって?あー、関係ない関係ない。近くにいたヤツをたまたま好きになって。それが男だったってだけの話。 そんなん言ったら、美形だらけの男子運動部についてけないって。 ノーマルだとは言わないけど、世間様の常識から言ったら微妙に外れるかもしれないけど。人を好きになるっつーのに、あんまりそれって関係ない、とオレは思う。 「レギュラー様」 「嫌味」 「ちげーし。練習サボってると監督に怒られるんじゃね?」 「お前もな」 「オレなんか期待もされてねェ」 「バーカ」 バカです。 「バカっすよ」 「認めてら」 「バカついでに」 「何?」 「やっぱー、オッシーとー‥」 「しょーがねーじゃん」 うーん、そーか。次の試合も忍足氏とペアァを組むわけだ。 ………妬くな!オレ!忍足じゃねェか。女性専門のエロ関西人じゃないかっ。(忍足ファンに殺されるので、大きな声では言えないが) 「お前もあとヒトイキって感じだろ?」 「ヒトイキ行く前に次の大会レギュラー発表されちまったわな」 「皮肉」 「ちげーし」 「違くねーし」 あぁぁぁ、何を言ってんだ、オレは。 くそう。 しょーがねーのよ。 オレはあいつらよりテニスが下手です。 わかってんだ。天才は、1の才能と99の努力。オレにはその1の才能がないから。99の努力をしてるけど、お前らには追いつけない。 ちきしょーだ。 ガシャっと金網に手を掛けて。 「岳人」 「は?」 「悪い」 「?」 「ちょっとした八つ当たり」 「ふーん」 「ゴメン」 何の八つ当たりなんだと。岳人は聞く。 「わかんね」 「は〜?」 「イロイロ」 「色々ねぇ」 「レギュラーにも選ばれなかったし」 「惜しかったと思うぜ?」 「んー、サンキュ。あとはー‥」 あとは、 「コレ」 再び金網にガシャンと手を掛けた。 「は?これが?」 「オレとお前の」 隔たりだと、は言う。 「隔たり?」 「一緒に練習もできねェ」 メニューも違えば、扱いも違うように見える。言って、目は岳人の奥のコートを見た。レギュラー専用のコート。 「だから、ちょっとした、八つ当たり、っす」 すんまそん、と頭を下げる。 「確かに」 邪魔だよな、このフェンス。岳人の目は、頭の高さの金網に釘付け。 「だろ?あ、じゃーさ」 「んあ?」 「飛んでミソ」 ミソミソ。 「なーんてな」 ちょっと言ってみたかっただけです。 「そーか」 は? 「あ?おい?」 越えりゃいいんだと、ガシャガシャ金網に手を掛けた。 「ちょ、がく、何やっ、」 人は空を飛べるものなのだと。 こいつはどっかに羽根でも隠し持ってんじゃないかと。何度か推察したことがあるけれど。今日こそその可能性に心ときめかせたのは言うまでもなく。 舞ったその姿は、軽い足音を立て、「こちら」側のコートへ。 「が、岳人」 「越えればよかったんじゃんな」 何も考えてないような、平然とした態度。から目を逸らし、レギュラー用コートを見る。 「怒られるだろ」 「しょーがねーじゃん」 「レギュラー外されんぞ?」 「勝ち取る」 「あー‥、バカ」 「飛んでミソっつたの誰だよ」 あ?オレのせい? 「オレのせいなん?」 「お前のせい」 「うわー。ありえねー。責任転嫁〜」 「で、オレのため」 ………あらそー。 ふーん。 「アクロバティック」 「は?」 「早く戻れ」 「冷てーな、」 「だって跡部が睨んでんし」 「………跡部」 帝王がコッチ見てた。 「まぁ、次は」 「んー」 「オレが越えるからさ」 このフェンスを。 「待ってろ」 「んー‥、待ってるわ」 しょーがねェなーと笑ってまた金網を越える。 お前が笑って越えられる金網。 オレは死に物狂いで越えなければなんないんだってこと、実感した。実感したからこそ、それを超えないとお前と並ぶことができないのがわかる。 1の才能がなくたって。 100の努力でそっち行ってやるからよ。 待ってろ、岳人。
お題が確か、フェンスの向こうだったかな。
03/05/24 × |