Dash Dash FOOL man

 

 

恋を終わらせるには何とも時期はずれで。これから先のクリスマスやバレンタイン、寒い季節は人肌恋しい。そんな短期間で新しい恋を見つけろって?はは、わかった。あんた実はバカでしょう?
ねぇ健司、隣にあたしがいなくて寒くないの?


「………
「何」
「当たってる」
「……はっ?」
!」
「うわっ」

。今年で18回目の誕生日を迎えました。よーするに高校三年生。

「何?答え何?」
「……エンゲル係数」
「エンゲルけいすー」
花形に教えられた答えをそのまま口に。
「教えるなよ、花形。バレバレだ」
「……ウス」

「はいー」
「係数のところひらがなで答えただろう」
「そんなことアリマセン」
「……前に出て漢字で書いてみろ」
「えー!何で?」
「何でじゃない。仮にもお前は受験生だろ」
「ちっちっちっ。甘いな、先生」
わたしが大学行くとでも?のその言葉に政経教師の顔が曇る。
「……
「うっそうそ。ちゃんと行きますよー。東大でも早稲田でも」
がそこまで言うとチャイムが鳴った。四限の終わりを告げるチャイム。その音とにため息をつき、日直に号令の支持を出す。
「来週までに課題終わらせろよー。……特に
「うー?」
「お前、最近おかしいぞ?たるんでる」
「まァ!あたしの腹がですか」
「……お前な」
「ハイハイ。わかってます。シャキットね」
そのくらい、分かってますよとは席を立った。




屋上に一人でいたに声をかけたのは隣の席の花形で。パンを頬張りながら見上げる。背の高い、眼鏡の男を。
「はああは」
「?」
「あんはおぃうはへはいほ?」
「食ってから言えよ」
お茶でパンを流して。
「あんたお昼食べないの?」
「食べたよ」
「ふーん」
寒い屋上になんかよく来れますねぇ、そうが言えば、お前もだろ?と花形は笑った。
「寒さに強くならなきゃね」
「……あー、、藤真のことだけど」
「言わないでよ」
「あいつは」
「言わないでって」
「お前のことが大事なんだと思う」
「うるさい」
うるさいのよ、花形。そんな話だったら聞かない、どっかいけ。花形を見ずには言う。花形は少し間を置いてに背を向けた。屋上のドアが閉まる。


「…………」

別れた。あたしとあの人は。
ケンカなんてしょっちゅうで。でもあの時は特にきっかけになるようなケンカもなくて。あたしはワガママし放題で。でも、あいつの方がワガママ度は上の上で。
サヨナラという言葉の意味を。あたしは理解できなくて。

「健、ひょ〜ん……」

藤真健司。あたしの彼氏だった人。
風に乗せて名前を呼んでみる。届かない名前を。
あたしの頬引っ張ってさ。健ひょんって呼ぶなって言ってよ。

……もう一度。



『お前のことが大事なんだと思う』



わかってるよ。あの別れの言葉は優しいからなんだって。

「お前とつきあうのヤメルわ」 って。
「飽きたってゆーか。好きじゃなくなった」 って。

バカだね。

本当にそんな風に思ってたら、絶対に言わないもんね。プライドの高い女王様だけど。傷つけて楽しむような、そんな男じゃないもんね。
あんなこと言って、一番傷ついた顔したの、あんただもんね。




「アホだなぁ〜‥」

別れてから聞いた噂。
バスケ部の藤真健司が関西の大学に行く。スポーツ推薦か何からしい。

バカ。

バカ。

あんたバカ。

あたしが泣くとでも思ったんでしょう。寂しくても義理立てして、他に男が作れない。そんなこと思ったんでしょう。

バカな健司。

離れてダメになるような、そんな関係じゃないでしょう?
あたしはあんたの人生から、消えてなんかあげない。




「オイ、藤真」
「おー、花形」
藤真のクラスに足を踏み入れたのは花形透。ちょうどいーとこに来た、そう言って藤真は自分の手元の紙を見せる。
「ん?」
「推薦書。スポーツに対する意気込み」
「あぁ、書くんだ?」
「そ。面倒」
「……藤真」
「何だよ」
のことだけど」
「あー、もう聞き飽きたっ」
可哀想だろ」
「うるせーな。こないだ全部お前に言っただろ」

思い返すのは二日前。
何度もやり直せと説得した花形に、とうとう自分の本音を漏らした藤真。

『あいつは自由なんだよ』

オレなんか待つ必要ないと藤真は缶コーヒーをすすった。


「アイツ泣くぞ」
「泣けば?」
「死ぬかもな」
「……は?」
「最近よく屋上にいるんだよ」

それは嘘ではない。

「今日も屋上、昨日も屋上」
多分明日も屋上だろーな。その言葉が終わる前に、藤真は教室を出ていた。










どーしたらいい?バカでバカでしょうがないあの人は、どーやったらあたしを見る?真正面からあたしを見てくれる?泣かないってわかってくれる?

「……次体育だー‥」
健司のクラスと合同。そんなことを思って立ち上がり、金網に手を掛けた。校庭では、少し早く出てきたジャージの男子生徒数名がサッカー中。
「うー、サボっちゃおっかなー‥」
ダルそうに出てくる藤真がまだいない。キッチリな花形に扇動されて、いつもこのくらいの時間にいるのに。

「けーんじー……」





届かないはずの声。



まさか、届くとは思ってもいなかったから。





ガンッ、と。でかい音を立てて開いた扉。ノブを掴んでいたのは藤真健司。
ビックリしたままのは何も言えない。

っ」
「……ふ、ひゃい」



声が届いた。


それは確信。



「……何してんだよ」
「な、何って」
「屋上で。何やってんだって。授業行けよ」
「健ひょんもでしょ。次体育」
「んー、そーか。あ、お前また健ひょんって……じゃなくて」
早く行けよ、藤真の言葉にコクコクと頷きながら一歩足を。その足を見て思う。
踏み出した足は誰を向いてる?自分の想ってる人。

「健司」
「……何だよ」

どうしたら、いいか。

「あんたいっぺん死ねば?」
「……あァ?」
「バカは死ななきゃ治らないんだよ」
、お前な‥」
「確かにね、あたしは弱いっ」
弱い、弱いよ。弱い。健司が遠く離れたらすぐ泣く。絶対泣く。
認めようじゃないか。
「離れたら息もできない」
「………」
「寂しくてしょーがないよ」

「だけどね」

だけど。

「だけどあたしは」

あたしは。

「別れるのはヤだ」

喉の奥熱いなぁ。でも泣いたらだめだ。

「……あんなの優しくも何ともないよ」

バカ健司。







「……バカだよな」
オレ、バカじゃん。小さく言葉を零した。
わかってたんだ。コイツにはあんな嘘通用しないってことは。何年一緒にいると思ってんだ。

「離れてたら」
「………」
「絶対辛くなる」
言葉を搾り出した。
「わかってる。だから言ってるじゃん、離れたらあたし泣くって」
真っ直ぐな視線が少し恐い気がしたけど。それでも真っ直ぐに見てもらえてるから。
「離れない」
あんたの中から絶対消えない。
「追っかける」
「は?」
「今年のクリスマスもお正月もバレンタインも」
寒いけど一緒にはいられないから。言って、精一杯の笑顔を。

「あたしも一緒に行くから」















「花形さぁん」
「……無理」
「何も言ってませんけどっ」
「お前の猫なで声は嫌いなんだ」
「うっわ。ちょームーカーツーク」
まぁいーかと、席について問題集を開く。
「……
「んん?」
「こないだの模試の結果どうだった?」
「上々」
あたしにかかれば世界史なんて屁のカッパ。笑ってペンを回した。
「そこ違う。チャイコフスキーは音楽家。お前絶対受かんねーよ」
「藤真」
「あ、健ひょん」
どうしたんだよと話しかける花形を余所に、藤真はの頬をつねって言う。
「健ひょんとかゆーのはこの口か?おぉ?」
「ひゃいいひゃい!」
「あ、花形。こないだの推薦書のことでさ」
「はなひぇ!」
つねったままの手を離さずに花形と会話を始める藤真。
痛い痛いといくら言っても聞かない男を見ながら。

ねぇ、健司。
やっぱこっちの方がいいでしょう?

あったかいよね。

 

 


藤真ってゆーか花形が好き。
03/10/31  ×