熱くなれ!

 

 

私を好きだという同性の人間はいない。姉ちゃんとかお母さんとか、身内くらいかな。性格が悪いとか、そりゃあ自分じゃさっぱりだけど一番の理由はわかってる。
私の恋人(げ)が、跡部景吾だってことだ。


「あかんのと違う?」
「あかんことないです!もうどっか行って下さい!」
「けったいやなぁ。自分が頼んでんで?」
「は、早く閉めて下さい!」
跡部の御友人(互いに違うと言い張る)忍足先輩にドアを閉めてもらった。放課後の校舎内を面白いことにかくれんぼ。

珍しいことにテニス部が休みだというので、

【五時半正門】

そんなメールが送られてきた、かかか、彼氏から。

校内で会うことは滅多にない。朝も練習だし、放課後も遅くまで練習だし。たまに、ごくたま〜に、近所の彼の家に行くくらいだ。制服姿で道を歩くとか、ちょっと憧れたシチュエーション。阻まれることも千万承知。

くそう、三年のお姉さま軍団め。
二年の跡部親衛隊め、一年の跡部信者め。
オマエラにあたしの憧れシチュを壊していい権利は無いのに!
ぐあー!悔しい悔しい悔しい!

悔しさいっぱいで何時なのかと携帯を見る。液晶画面に【17:51】表示。
「うっそ!」
しかも着信表示が7つ。
【あとべ☆けいご】(メモリを見られて頭を殴られた)
最後の着信は17時40分、こりゃあ帰った可能性高し。とりあえずここから出て詫びの電話でも入れ、

「いた?」
「もう帰ったんじゃない?」
「靴箱に靴があったわ」

まだ探してんのか!

「跡部様は?」
「30分頃正門で一年生が見たって」
へえへえ、きっともう帰っちゃったよ。は顔を歪めて舌打ち。
内、狭っ苦しい埃に埋もれる倉庫。外、跡部ラバァのいる廊下。
……ちきしょう、もちょっと待つか。


「あ、忍足先輩っ」
「先輩!」
なぬ?忍足先輩?まだいたの?先輩どけて。お願いだからその人たちをどけて!そんな思いを知ってか知らずか、遠ざかる高い声。
ガチャガチャと倉庫のノブが回される。

感謝、忍足先輩。


ガチャ、


「ややー、お世話になります、忍足先ぱ、」
「こんな小せェ倉庫もあるんだな」
「げっ」
「げ?」
「あああ、跡部先輩っ!何してんですか!」
「あァ?」
「オレが呼んでん」
探しに来たんだよ、とか言わないあたりが跡部景吾。後ろの忍足は苦笑いで押し付けがましくない態度。やっぱりお世話になります、忍足先輩。
「早く出ろ」
「あ、あぁ、はい」
わかりましたと言おうとした、そしたらバタバタと足音。ついでに、いませんでしたよ忍足先輩、甲高い声が良く通る。焦った忍足は跡部の背中を倉庫の中に押し込み、は小さく悲鳴を上げて後ろ向きに倒れこんだ。


バタンッ‥


「……い、だい‥」
「狭ェ」
「あ、跡‥先輩、重‥」
「あァ?」
あァ?じゃないんだ、重いんだ‥。背中に埃がくっついちゃう。

「本当にいたんですか?跡部様ぁ」
「おったおった。あっちやで?」
「てゆーか何隠したんですか、忍足先輩」
「怪しいんですけど」
「あ?ただの掃除用具入れやって」
チラっと跡部に目を向ければ、面白くなさそうなカオ。は溜息混じりに小声で、忍足先輩ゴメンなさい。
、いるんじゃないですか?」
「こんなとこ入らんやろ、普通」

入っててすみません。

「……うぜェ」
「へ?」
あああ‥跡部景吾の機嫌が悪くなってきた。ゴメンなさい、忍足先輩。

「隠すのが怪しいんですってば!」

ドアノブが回された。


「跡部先輩」
「あ?」
「キスしましょう」
「何、っ」


ガチャ、


「きゃあ!」
「うわ‥」
腕が跡部の首に巻きつき、何をしてるのかは明白。ぶっちゃけ艶かしい体勢。
女生徒数名、目を見開いて口開き。忍足侑士はグデッと苦笑い。
「………っ、」
「な、何してるのよ!」
「ちょっと!離れて!」
言われた通り離れたはその体勢のまま見上げ。ニッコリ笑って一言。
「逆に燃えますよね」
「え?」
「は?」
「祝福されない恋愛ってのは」
火花散る、女の黙戦。真っ暗にしたら見えるかもしれない、赤い火花。
何人いたって負けるもんか、は負けん気強いし。

「うぜェ」
「え?」
ボソッとそれは呟かれ、
「邪魔してんじゃねーよ」
今度はハッキリ聞こえる声で、そしてそのまま、今度は跡部が唇を奪う。で唇を受け止めるが、条件反射だ。
「……そーゆー‥こと、なんやて」
声と共に閉められた扉はスローモーションで遠ざかった。
上体起こした体が、また埋められた故。離れた唇に、跡部先輩?そう問えば、返ってきた答えは簡単なもの。気が進まねェ場所だ、落ちた箇所は耳。

「セキュリティかかんの8時やで?」

扉の向こうから聞こえる声に思う。
最後まで、本当ご迷惑お掛けします、忍足先輩。

こんな埃臭い場所あたしも気は進みません、跡部先輩、言ってもきっと、その言葉はないものにされるのだろう。

 

 


跡部様だってさ!(チキンハダ)
04/02/20  ×