それだけのハナシ

 

 

「信じらんない」
「あァ?」
「一人じゃ帰れない」
「そーだな」
「そーだなじゃねェよ」

跡部景吾に拉致られた。

跡部景吾という名のキング・オブ・氷帝。
夏休みも終わろうというある日、彼に拉致られました。連れてこられた先、はー‥、ぶっちゃけどこだかさっぱりわかりません。だから、一人じゃ帰れない。


「………は、犯罪?」
「まさか」
あたしの問いを鼻で笑ってそう答える。
「お前が」
「へ?」
「話聞く気がねェのはわかってたからな」
「や、それは、」
「だから、聞かなきゃいらんねェ状況にしただけだ」

目の前に、海が広がって。周りに人はいなくて。一時間半ほど電車に揺られて一緒に来たんだけど。跡部って、金持ちだから電車なんて乗れないと思ってたのに。何も言わずスイスイ乗り換えしたりなんかして。何でもできるんですね、この男は。

「は、話?」
「わかってんだろ」





跡部景吾は、きっとあたしに惚れてる。

自惚れ?あぁ、そうかもしれない。

でもわかったんだ。
わかっちゃったんだ。

こいつの目は、あたしを見てる。

それを意識したあたしも、今やこいつに惚れてるんだ。





だったら、両想い。

でも、





「ダメだし」
「あ?」
「ダメなんだよ」
「わかんねェな」
ダメなんだ。想いを伝えるのも、受け入れるのも。
何故って、あたしとあんたの距離は、

「あたし、引っ越すから」

遠くなる。


夏休みが終わったら、あたしはあの街からいなくなる。お父さんの仕事の都合なんだって。いくらあたしが嫌だと言っても、そんなワガママが通るわけも無い。
あたしは、あの街を離れます。










「それが理由か」
「………」
「ここ半年、」
オレを避けてた理由はそれかと。跡部は海を見たまま言った。
「オレに言わせなかった理由はそれだけのことか」
「それだけ、じゃない」
「たかが近いか遠いかの話だろ」
「たかが?距離はおっきいよ」
「バカだな、お前」

好きな人に、好きだと伝えてからお別れをしたいと思った。
でも、そうもいかない。
こいつがあたしのことを好きだとわかってる以上、それは言えないと思った。
気持ちが強まることは、めにみえてる。

「だから何も言わないでよ」
「何のためにここまで来たと思ってんだ?」
「だけど、」
「確かに、離れたら会いに行くにも金と労力がかかる」
「お金の問題じゃないっ」
「……あァ。気持ちの問題だ」
わかってんじゃねェかと、嫌味ったらしく笑った。
「つき合うだ何だと、生ぬるいことを言いたいわけじゃねェからな」
そして目線はを捉える。

「お前はオレのモンになる、ただそれだけだ」





だったら、跡部はあたしのモンになるんだよ?のそんな言葉に、一人に縛られんのも、たまには悪くねェと返した跡部は。小さく呟き、腕を引いた。
「それだけの保証も、ないよりマシだ」
「え?」
「近くにいるのに避けられる、こっちの身にもなってみろよ」

距離に想いが比例するわけじゃない。
反比例するわけでもない。
それはそれで別のもの。

確かに、距離が広がって想いが小さくなる人もいれば、逆もいる。
でもあたちたちは、そんな法則上に立つような性格してなかったね。



跡部に連れてこられたこの場所が、
自分の新しく生活する街だとが知ったのは、数日後の話。

 

 


新学期は転入生の季節です。
03/09/19  ×