最低男の君臨劇

 

 

最悪ね、こんなの。でもダメ、離れたくない。


「……安仁屋?」
「ん?」
「何考えてんの?」
のこと」
「嘘ばっか‥」
「マージマジ」

愛しい男は上の空。安仁屋恵壹は、我が校野球部のエース。
そんな彼は遊び人で、あたしの他にも、何人か関係を持ってる女はいる。あたしはそれを知って、そんでもって、彼女たちもそれを知ってて、それでも彼との関係を保ってる。

「試合中の安仁屋ってさー」
「んー?」
「カッコいいよね」
「今は?」
「さー?」
「おい」
「カッコいいカッコいい」
「棒読みじゃねーか」
笑いながらね、そうやってあたしの耳をくすぐるの。いつものように、イチャイチャを仕掛けてくる。
みんなきっと、あんたこのとを憎からず思ってるから、だからこの関係を続けているのよ。みんなきっと、あたしと同じ考えなんでしょうね。
「安仁屋」
「んお?」
「野球好き?」
「……好きだけど?」
「あたしはー?」
「大好きに決まってんじゃん」
「本当にー?」
「本当本当」
梳かれる髪はサラサラと細やかな音を立て、安仁屋の指から滑り落ちる。

「うん?」
「する?」
「シたい?」
「シたい」
「正直だなー」
「男だから」

キスを求めればキスをしてくれる。舌を絡めれば絡めてくれる。
でもね、みんな知ってること。あなたは愛を求めても、愛をくれることはない。どんなにそれが欲しくても、あたしたちに注がれることはない。

あなたの愛情は全部、野球へ。



「んー?」
「痩せた?」
「マジで?」
「マジで」
「ダイエット成功〜」
「んなもんしなくてもいーだろ」
「女はいつでも綺麗でいたいの」
「オレのために?」
「そーよ?」
「ダイエットしなくても、お前は綺麗だよ」
「ありがと。……あ、」
「ん?」
「唇、赤い」
「あ?」
ゆっくり人差し指でなぞる唇。あなたの唇にうつった、あたしの紅色。
「キスでうつっちゃった」
「うつっ‥?」
「あたしの、」
「ルージュ?」
「ううん。色つきリップ。今日はね」
「服にはついてねェよな?」
「………え?」
「シャツに」
「ついてないけど?」
「なぁ、
名前を呼ばれて、それと共にまた降りる唇。


わかってしまう。
わかるのよ。バカね、誤魔化しきれてないのよ。
あなたが何を気にしてるか、ねぇ、バレてるわ。
最近あなたが変わったって。それはまた野球を始めたから。
でもそれだけじゃないって、あたしみたいに気づいてる人だっているのよ。

大丈夫、襟元にもどこにも、あたしのリップはついてないから。

彼女にバレることもないわ。



男が一人を愛する時って、どうしてこんなに魅力的になるのかしらね。真剣に想えるその人を見つけてしまったあなたはどうしてそんなに魅力的なんだろう。
その愛される相手が、真剣になれる相手が、あたしではないとわかっていても、こうせずにはいられない。あなたと一緒にいずにはいられない。
愛を注がれることはないとわかっていても、あなたには真剣になれる相手が他にいても、それでも、あたしはあなたと一緒にいたいらしい。
実際バカだとは思うわよ。壊せてしまえたら楽なんだろうけど、ルージュを、リップを襟元につけて。それであなたと彼女の間を壊して。それができたら楽なのに、あたしにはそれができない。

やたら切ないのに、そんな風に抱かれることは悲しいはずなのに。
それでもあたしは、あなたから離れられないの。

 

 


最低安仁屋とバカな女の巻。
04/01/26  ×