身勝手な彼と彼女

 

 

浮気してやるんだからという彼女の声が耳から離れない。
ため息白く、放課後の空は雲ひとつない夜晴れ。

おめーバッカじゃん、言われたくねーなオマエには、赤星は自分よりバカだと思う相手に視線を流した。不名誉な感想を持たれた相手、濱中は携帯電話に食らいついている。
二人帰り道を共にするなんてことは稀の稀で、実は結構不本意だったりもする。しかし誘ったのは不本意だと思っている赤星の方で、バカだなんだと言われたからって、この場から去るわけにもいかない。
己の彼女から発せられた「浮気発言」の一端をこの男が握っているらしい。そのことが小一時間前に発覚してから、嫌でも隣に並んで歩いている状況。

「お前がわりー、お前が」
「うるせー」
やつの視線は携帯電話から離れずに、さっきからただ赤星を攻撃。普段なら口で勝てない相手ではないのだが、彼女に対して後ろめたい部分があるため、こいつに反撃に出るような気も削がれる。

一応「彼女=恋人」枠に入る女がいる、名前は
面白いことに同じクラスで部活も一緒という間柄。最初は濱中と自分よろしく、犬猿の仲だったのだがどこでどうなったのか未だ不思議だ。
もっと不思議なのは、どれだけ彼女にハマってるかってのを痛感したこと。
言ってしまえば、彼女の「浮気宣言」は自分の浮気に原因がある。それを棚に上げ彼女の浮気を阻止するなんてことできるわけがない。普通の恋人同士ってやつなら阻止するのは当たり前だが、なんせ自分たちはそうではない。気持ちの上での方が自分を好きだとタカをくくってる部分があった。いや、今でもそう思う、思おうとしているブライドが好ましくない状態で自分のそこにある。
『勝手にすれば』、それが赤星の口から出たのは彼女の浮気宣言の10秒後の話だ。どれだけハマってるのかを痛感したのはそれから約一日後になるのだが。


「にしても、ちゃんに手ェ出すかよ、フツー」
「あァ?」
ちゃんと仲良いだろ」
「知らねーし」
「げ。泥沼」

うるせーマジで知らねーよ、が誘ってきたんだ。にはない魅力っつーの、あれ、なんつーか、色気?ムンムン?カモンみてーな。まぁあいつも酔っ払ってたからよ、マジでお互い浮気っつーか。本気じゃねーし。素面だったら何もしねーだろ。多分、お触り止まりだろーよ。(それは許せ飲み会だ)

「お前さ、と別れんの?」
「別れるかよ」
「それ言えば、に」
「言うわけねーだろ」
「つか喧嘩の原因お前じゃん」
「あいつが浮気とかわけわかんねーこと言ってんのが原因だろ」
「それはお前の浮気が原因だろー」
ダメだこいつ、小さく言葉を零した濱中は肩を竦めて鞄を持ち直した。と同時に、ポケットの中でブルブルと携帯の振動を確認。先ほどしまったばかりの携帯電話を手の中に収めて受信ボックスを開く、忙しい限りだ。

「浮気っつっても、ちゃんにはと別れるっつったんだろ?」
「だーら、酒の上での話」
ちゃん律儀に覚えてんのにそれかよ」
「あいつオトコいんし。イッコ上?」

そう、だからお互い浮気なのだと思う、がオレに惚れてるとは思えない。つーかオレはあれだから、マジで浮気だから、本気じゃねーから。言わねーけど、言うつもりねーけど、に本気だとか、絶対言わねーけど。

「デコ星よー」
「んだ、濱バカ」
「オマエ、女の敵」
「うっせー」
舌打ちひとつ、途端に嫌な顔する濱中から視線を外して遠く光る信号を目に入れる。

こんなこと、こいつと話してる場合じゃなかった、それに気づいたのは駅前。随分無駄な話に織り交ぜた無駄な沈黙を堪能してしまった。

「つーか」
「んあ?」
「オマエ、が浮気すんの、何握ってんの」

浮気宣言の一日後、つまり今日。部活の休憩中に話し掛けたら早速シカトのに詰め寄った。何も言わずに睨みつけ、そんなに知りたかったら濱ちゃんに聞いたらときたもんだ。その後もずっとシカト、帰りにもう一度話しでもするかと面倒ながらに考えていたのだが、は部活終了後速攻で帰ったらしいことを塔子から知らされた。残る鍵はバカみてーに大口開けて昼時に買ったらしい購買パンを食ってる濱中だけだった。

「オレ何も言われてねーよ」
「あァ?」
「さっきオマエに言われて考えたけど、何も知らねーし」
「何言ってんだおい」
「マジだっつーの」
「何でだよ」
「部活とガッコ以外で会わねーし」
「電話とメールは」
「してねーっつの」
オレがの浮気相手知るわけねーだろと、また携帯に視線を落とした濱中に、オマエとりあえず携帯しまえと赤星はそれを取り上げる。
「どわっ、返せハゲっ」
「気分わりー、話してんだからしまえ」
「教えてやんねーぞ」
「あ?」
の居場所」
「帰ったんじゃねーの」
「まだガッコー」
「あァ?」

『早いとこ赤星帰しちまえ』

赤星の目に入ったメール文、自分の名前が入ってることに少々訝しげ。そのまま視線を濱中に落とせば、気分悪そうに横を向いて視線を逸らした。

「何だこれ」
「がー!見んな!」


『今どこだ?』
『早く帰れっつーの』

カチカチとボタンを動かす手元から引っ手繰るようにして奪い取る。


「バカ中」
「バカ言うなハゲ」
ガッコーだっつったよな」
「あー?」
と連絡取ってねェっつったよな」
「………」
「それ誰」
「オマエこえーよ顔」
「ハマ」
「……湯舟サン……」
言い終わったと同時、後頭部に走った衝撃に膝を落として蹲った。小さな呻き声など、数十メートル離れた先の赤星にはもう聞こえないらしい。
やつの走り去る後ろ姿は部活以外で見たことないなとか考えながら、どうしてが自分を赤星に宛がったのかわかった濱中は振り回されてる湯舟を可哀想に思いながらも、まぁいいかと駅内へと足を進めた。

 

 


リハビリテーションですわたしの。すみません。
06/02/01  ×