| 私を野球に連れてって |
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『あーあー――――――!はってっしーないー――♪』 クリスタルキング、大都会。今日も都会の片隅で、一人の男が叫んでる。 「塔子ちゃん!オレと愛が生まれた日を!」 「あ、愛が生まれた日?」 「今岡!早く入れろ!」 「平っち、もう予約いっぱいだから‥」 「うおー!」 「つか古ぃよ湯舟」 「大都会って何だよ、マジ」 「あややだろ、今時。濱中!あやや!」 「うっす」 実テの打ち上げです。いいのでしょうか、ニコガク野球部。アルコール度数周りまくってるボックス内。 発端はと塔子。テストも終わったことだしカラオケ行こうか、そんな二人の言葉を聞きつけたのは平塚。あっという間に関川の耳に届く、あっという間に安仁屋の耳に、濱中の耳に、赤星の耳に。 岡田と新庄、御子柴を除いたニコガク野球部集合。 不参加の雰囲気を醸し出す赤星。 しかし来てしまった、むしろ来なければならなかった。 「なぁ」 「んー‥」 「帰んね?」 「はァっ?歌ってねーしっ!」 己の彼女が発端のうちの一人だったから。 「やらよ!歌うんだ!」 しかも酔っ払いと化した。 「帰りたきゃ一人で帰れー」 「そーだ赤星」 「ちゃんはオレらが介抱すっから」 帰るわけにはいかんだろう。溜息をついた赤星はの肩を引き寄せ、目の前に座る若菜、桧山両先輩を睨みつける。酔いの回った男二人も睨み返すが、効力は薄い。腕の中で苦しそうにもがく。少しだけその力を緩めると、伸びる彼女の手は缶ビールへ。 「おい」 「あァん?」 「もうやめとけ」 「まだ二本目らし!」 まだまだ修行には足りない!プシュッとふたを開けた。修行には?赤星は、は?とを見るが、はゴクゴク缶ビールを呷る。 「バカかあんたは」 どうしたらいいか頭を悩ませる赤星のもとに、とりあえず救いの女神。、飲みすぎじゃない?と塔子が缶ビールを取りあげた。 「塔子までっ」 「テスト勉強であんまり寝てないのに毒だよ?」 「ちゃんと寝たし!」 ぐちぐち言いながら、仕舞いには涙声になる始末。赤星と塔子は目を合わせて肩を落とす。 「赤星君、連れて帰れる?」 「はぁ」 「あ、送ったら戻ってね」 「や、そのまま帰りますから」 「わかった」 腕を持ち上げて立ち上がる赤星。は怪訝な顔をして、まだ歌ってない!同じことを繰り返す。 「、また次ね」 「塔子〜っ」 「塔子〜じゃねーだろ。先輩」 「バカ星!まだ七回裏じゃねーもん!」 「あァ?」 「テイクミー!これ、あたしが入れたの!」 マイクマイク!は湯舟にマイクを渡すよう命じた。 バックミュージックにはウェスタン調の緩やかな曲。 どっかで聞いたことある、赤星は画面を見る。 『ていぃくみーあうとぅーざぼーげーむてーくみあうぃざくろー♪』 英語の歌詞を、呂律の回らない舌で歌い上げる。 洋楽というかあれだ。メジャーリーグ七回表と裏の間、観客席が歌うあの歌だ。 【Take me out to the ball game】 「あ、また」 「は?」 「のお気に入り」 「あー‥そっすね」 「赤星君の着メロ、これって知ってた?」 「マジっすか」 Take me out to the ball game. Take me out with the crowd. 「そーいやテレビ見ながら歌ってるわ」 「カラオケでも毎回ねー」 「………ははっ‥」 「あたしも一緒に歌うって言ってるわよ」 よくわかんないけど、だからビールも飲むって言うの、塔子は苦笑いで赤星に言う。 Buy me some peanuts and crecker jack, I don't care if I never get back. 「ビール飲みながら、赤星君応援するんだって」 「は?」 「メジャーリーグの正しい観戦の仕方らしいよ?」 Let me root root root for the home teem. If they don't win, It's a shame. 汗にまみれて試合をするあんたを横目に、ビール飲みながら応援してあげる。そんなことを、そういえばいつか言っていたかもしれない。酒強くねェくせに何言ってんだと、そう思った記憶がある。 「……頭悪ィ女‥」 For it's one,two,three strikes you'er out. At the old ball game. 「塔子先輩」 「ん?」 「帰りますね」 「あ、うん」 「先輩」 「へ?まだ歌ってるじゃんっ」 「いーから」 赤星奨志、非力ではないのです。 何だかんだと愚痴垂れるをボックス内から連れ出した。二年生のちょっと待てコールがやたら邪魔をしたが、そこは何とか塔子のお陰で乗り切った赤星。 外に出るとやはり寒く、は更に文句を零す。寒い、戻ろう、戻ってまだ歌いたい、繰り返し赤星の制服を引っ張った。赤星は赤星で、冗談じゃねェと呟き、その手を掴んで歩き出した。 「もーもーもー」 「自分が悪ィだろ」 「あーくそっ!」 「飲まなきゃいれたんだよ」 「修行だって言ってるじゃんか!バカ!」 お前はクリリンか、とかいらんことを思いながら。赤星はの頭を撫でる。 「やー!騙されないっ!」 「ビールなんか飲まなくても応援できんだろ」 「だって観戦ブックに書いてあったもん!」 どこでそんな本を見つけたんだ、この女は。しかもきっと、『ビールでも飲みながら観戦するのもひとつの楽しみ方です』 そんな風に書いてあったのを、飲みながら観戦するのが正しいと、この熟れきった脳は解釈してしまったに違いない。 「ピーナツと」 「んー?」 「クラッカー、で、観戦すれば?」 「は?」 さっきの曲の一節を、赤星は口ずさむ。 -- Buy me some peanuts and crecker jack, ピーナッツとクラッカージャックを買ってくれたら --- 「それでいんじゃね?」 「……ばい、みーさんぴーなつあんくらっかーじゃーっく‥」 まだ呂律は回らない。 「じゃあ、そーするー‥」 酔っ払いの相手は大変である。脳が退化して子どもに戻るんだ、コイツの場合。 さて、この酔っ払いを家に送り届けるのは少しばかり危険。 「ピーナツとクラッカー買うから、オレんち来る?」 「んー?球場行く練習?」 「そうそう」 「わかった。行く行く」 -- Buy me some peanuts and crecker jack, ピーナッツとクラッカージャックを買ってくれたら I don't care if I never get back. もう家になんて帰らなくたっていい --- Take me out to the ball game あの歌を歌うときは、敵も味方もないのよね。野球が好きで集まった観客たちが、互いの選手、互いのファン、そして野球を愛する者同士で歌う。 それをあたしに教えてくれたのは、あなただった。あなたがメジャーという大きな舞台に立ちたいのなら、そんなあなたが教えてくれた、素晴らしいその野球の世界に、あたしも一緒に行ってみたいと思う。 七回表終わったら、あたしも周りの人と一緒に歌うから。 私を野球に連れてって 赤星の夢がメジャーなら、それがあたしの夢だわ。
この歌やMLBの世界観が大好きなんです。
04/02/06 × |