陥罠行為見抜事不出来

 

 

オレが忘れさせてやろうかと、あのバカが鼻で笑った。
男相手にする趣味はねェ、そう言えば返ってくる。

「オレもだ」


彼女が船を出てからもうどれくらい過ぎたか。かなりの年月経ったのに、まだ傍にいるような気がする。彼女と出会い、雪の国を経て、砂の国で別れ、あぁそれで、空から帰ってきた今でも彼女のことを思う。水色の髪が揺れ、おはようと笑う彼女の声が聞こえる、空耳だとわかってるけど振り返らずには居られないんだ。

「だったら残りゃ良かっただろ」
「お前それ冷てぇ」
「冷てぇもクソもあるか。うぜェんだよ、そーいう考えが」
「心に傷負ったヤツになんちゅー言い草だ」
それに、オレは女作って幸せになりてぇわけじゃねェとは言う。その言葉にゾロはまたしても鼻で笑った。

たまに、ゾロとは夜中にこっそりと酒を飲み交わす。飲みすぎるな、隠れて飲むな、そんなコックの言葉などお構いなしだ。翌朝二日酔いでガンガン鳴り止まない頭を振りながら起きることもある。大抵チョッパーが酒臭いと言いつつも二日酔いの薬をくれる。そんな日は決まって前日の記憶の一部がぽっかりと抜けているのである。酒は弱いがどうしても禁酒できない、そんな酒好き。

さて、花が咲いているのは彼の恋愛談義。
東の海で普通の村人として命を受けた彼は海賊になり、仲間になった可愛い王女に恋をしました。まぁそれも束の間、王女は自分自身と愛する国のため砂の国に留まりました、と、そんなお話。
彼の口から彼女の話題が上るのは、実は今日に限ったことじゃない。
いい加減何回目だとゾロは舌を巻く。

ダンとグラスをテーブルに置き、は深く呼吸する。
呼吸しながら天井を仰ぎ見た。
「寝るか?」
「あ?まだいい」
その返答にゾロは片眉を顰めてみせる。あまり嬉しくなさそうなその顔が目に入り、も口を尖らせた。そんなに早く寝かせたいのかと言えば、ゾロは目を向けるだけ。
そう言えば、先日二人で飲んだときも寝るかと聞かれた記憶がある。嫌だと答えると、同じように片眉を顰めて嬉しくなさそうな表情を作った。ゾロに嬉しそうな表情をしろという方が気持ち悪い気がするのは否めないが。
「てめェ‥」
「あ?」
「オレがガバガバ飲んでんのが面倒なんだろっ」
「……………」
「早く寝かせてェんだろ!酔っ払いの相手嫌だっつーんだろ!」
犬のようにキャンキャン吠える。ゾロはため息混じりに自分のグラスの酒を飲み干した。そして目の前の酒瓶を手にし、手酌で中身をトクトクと注ぎ入れる。
「聞いてんのかロロノア」

「あァッ?」
グラス出せ、目が言った。は促されるままに中ほどまで中身の入ったグラスを向ける。ゾロは酒を注いでやり、瓶を置くと自分の分のグラスを呷った。グッと少しだけ音を立て、液体が流れ込むのを彼の喉に向いた目が追う。
そこで対抗心を燃やすのが、ゾロと対等に飲もうとする男の浅はかな部分。
先ほどのゾロと同じような表情。片眉を顰め、至極面白くなさそうな表情を浮かべたは、ゾロによって並々と酒の注がれたグラスを掲げ見た。
小さく声を上げたかと思うとグラスに口づけてグッと飲み干す。
「……あのな、」
「っ、かぁー‥、って、見とけ、オレも飲めるっ」
「勝負してるわけじゃねェだろ」
些か呆れ顔のゾロ、の、口角が僅かに上がった。


胸やけ、胸やけ、そうブツブツと口の中で反芻している。ゾロは微妙な笑みを湛えたままその仕草を見続ける。
口の動きが緩くなり、次第に言葉が失われたのか耳に届く声がなくなった。
「‥
「……、」

「……あー‥」
まともな返事はない。

まるで確認するかのように、何度かゾロは彼の名前を呼ぶ。返事が全くないとわかると、ゾロがよく浮かべるあの不敵な笑みに変わった。

ゾロの手が、の体を捕らえる。は半分ほど目を閉じながら、それでもまだ意識はあるらしい。目の前にある男の顔を頭の隅にようやく入れた。
「寝るか?」
先ほども聞いた質問を再度投げかける。
「おー‥眠ィ‥」
返ってきた答えは、先ほどとは違った。
片眉を上げ、小さく笑みを漏らす。ゾロの手が、の体を滑り始めた。その体は決して反抗的な態度を取ることはなく、寧ろ垂れていた手がゾロの肩に回って迎え入れている。それは、この行為が初めてではないことを容易に示していた。

彼が記憶をなくす手前の合図は就寝に同意すること。
寝るかと聞けば、変な対抗心で必ずまだいいと返答する彼が、肯定する返答をした時、彼の意識は翌日に残るかどうかの危ういところにある。

どうって、つまりはそういうこと。

知らぬ間に慣らされてしまった彼の体は、自分の上を滑るその手を、何の躊躇いもなく受け入れるようになっていた。

腕の中で小さく蠢く。

『あぁ、頭痛ェ、』
『二日酔いだろ』
『またゾロより先に寝ちまった――‥』

を抱く腕の持ち主は、明日交わされるだろう毎度の挨拶を思い、顎下に舌を滑らせながら、そっと笑みを湛えた。

 

 


ロロノアを受けにできずに終わる。つーかこれ別にゾロサンでも‥(黙)
04/11/27  ×