声と言葉と想いの関係

 

 

売られた喧嘩は買ったろうじゃない。……しまった。売ったのはあたしでした。
ハイ、認めます。彼に喧嘩をふっかけたのはあたしです。否定なんてしません。
女の子に優しいサンジ君の目から見ても、いっつも冷静なロビン姉さんの目から見ても、平等公平なウソップの目から見ても、喧嘩を売ったのはあたしで間違いないさ。

夜の甲板。そんなことを思いながら、は途方に暮れる。
空には星が。海には夜光虫が。まるで全部が宇宙みたいだなんて、少しロマンチックに。浸りながらも、思い出すのは昼間のケンカ。
「今、……何時よ」
キッチンへ行けば、あるいは女部屋に行けばわかるかも知れないが、それをするのも面倒だと、いや、その場所に行ってもヤツはいないと。そう思ってか、足は動かない。ここにいたところで、今頃男部屋で眠りこけてるだろうあの剣士は来やしないのだが。
ケンカはいつものこと。だけど時と場合を選べよ。自分よろしくウソップのような声が頭の中にこだまする。

何があっても気にしない。ゾロと自分が仲たがいしてても全く気にしないのだ、この船のクルー達は。だから何の躊躇も無く宴は開かれた。ただ一人、気まずいのは自分。ヤツは少々遠慮がちの笑顔と、柄じゃねェという笑顔で酒を酌み交わし、用意された料理を口に運ぶ。こっちはこっちで、それを見てどーするでもなく。隣にいた素敵眉毛の金髪コックにお酌をされて酒を飲んだ。
宴と称したものの、やはりそこはメンバーも変わらぬ毎日のディナーのように時は過ぎ、少し違ったことがあったとすれば、鼻の長い彼の演説か。だがお開きの時間も昨夜とそう変わることなく、それぞれが個々に散っていく。
そんな、いつも通りだが特別な夜は、もうすぐ終わろうとしていた。


甲板の少女は何も言わずため息を。

あぁ、本気で今何時なんだろう。

たとえもし、今日という日が今終わろうとも、ここから動くことはしないんだろうけど。絶対に動かないのだろうが、酷く時間が気になる。
まだ今日なのか。もしかしたら、もうとっくに明日がきているのか。
少し項垂れ、少し後悔。

バカヤロウ。何で喧嘩なんかするんだ、あたしは。

ぼんやり小さく。海とも空ともとれない暗闇を見ながら。
声に出さず、胸の中で彼の名前を呼んでみる。

呼んでみた‥







………最初は、波の音かと。

「おい」

そんな波音があるわけないじゃない。


「ッッッ!?」
もちろん驚く、ビックリする、目を見開く。
「ゾロ?」
「あァ」
大袈裟だが、いるはずのない男だ。見張りでもないし、夜中にトレーニングをするような男でもない。トレーニングは昼間、日の高いうちに。その分夜は見張りの時でも眠りこけるような男。


どうして?


必要以上に驚いてるに、ゾロから発せられた声。その声は普段の彼から想像できるような声では決してない。
「何驚いてんだ」
「えっ、」
「てめェが呼んだからここにいるんだろ」
「呼んだって、あたしが?」
「あァ」
「よ、呼んでないよ?」
「いや、」
オレは呼ばれた。呼んだだろ?と、やはり普段の彼からは想像できない。そう、必要以上に優しい声。穏やかな声。


「呼ん‥で、」

ない?いや、呼んだ。呼んだ。

でもそれは、


「お前のここが、オレを呼んだ、だろ?」

そう囁きを落とされ、引き寄せられた体。ここ、と彼が言ったのは、喉もとの下、鎖骨、胸の上。鼓動が、苦しいほど高鳴ってる。

「違うか?」

首を横に振るのが精一杯。そんな自分を見、だろ、と笑う彼の顔は、あぁ、また普段とは違う。そして、一番気にしていたとこを易々と告げた。

「まだ『今日』だぜ?」

それは、あたしのためなのか。それとも己のために、その先を促したのか。
わからないけど。わからないけど、まぁいいか。
恐ろしく特別な夜に浸れそうなのだから。


「ゾロ、」

誕生日おめでとう。

 

 


2003年ゾロ誕生日
03/11/01  ×