| ジユウジンの眠る場所 |
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そもそも、ここにいることが無理なんでしょう? 決して見張ってるわけではない。あの小舟を、見張ってるというわけではない。 遠く、海の向こうが白み始めた。 あぁ、肩が冷たい。一晩中こんなところに一人でいて、きっと風邪を引く。 「?」 見張ってるというわけじゃなかった。だって、この男が現れても、自分は何をすることもできない。止めることなんて、できやしないんだから。 「シュライヤ」 「お前、」 何でと、困惑した顔で言う。見つかる以前に、隠れることはできないとわかってた。そして見張りを。あの船を見張った。 ひとつの希望。 私の姿を見たら、考え直してくれるだろうかなんて。 全くバカな話だ。 「行くの?」 「………」 「行くんだ?」 シュライヤはよく海を見てた。そんなに好きなの?ってくらい海を見てた。 で、あたしはそれと同じくらいシュライヤを見てたから。だから、気づいたんだ。 見ているのは海じゃなくて、 海の向こう。 「アデルや、ビエラじいさんには言った?」 その言葉に彼が返したのは、曖昧な笑み。 イエスともノーとも取れる、曖昧な。 言ってなかったとしても、気づいてはいるだろうと。彼は思って疑わない。 そうなんだと思った。 昔話を聞いた。シュライヤとアデルと、ビエラじいさんの。彼らの話を信じてるのは、あたしくらいなんだろう。みんな、よくある酒の席でのつまみ代わりの話だろうと。うん、そう言ってた。 だけどね、その話が本当なんだと思ったのは、アデルの涙を見てしまったから。 『兄ちゃんは、海を見てるんだ』 『兄ちゃん、ここにいて凄く幸せそうだよ』 『でも、海を見てる』 『いつか兄ちゃんは海へ帰るかもしれない』 『オレや、じいちゃんはまだ、この幸せの中で生きていくことができるけど』 『多分、兄ちゃんには無理なんだ』 幸せの中で生きてることは退屈なの? アデルの涙を見て、過ぎった言葉を飲み込んだ。 違うんだ。そうじゃないんだ。退屈とかじゃなくて。 「……シュライヤ………」 ねぇ、シュライヤ。 『兄ちゃんは、』 「行っちゃうんだ?」 『海で生きてた』 「」 『あの海で生きてたから』 自由な男だから。 言葉の代わりに、今まで交わすことのなかった軽いキスで。 ありがとう、さよなら。 そして、もし、もし、 また会えることがあったなら、と。 小さなキスで、それを全部伝えた。 何てことない。 在るべき場所へ在れ。 光射す海へ帰っていく、自由人。
フリーター
03/10/12 × |