| リップスモーカー |
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どこ行くんだって聞けば、煙草を吸いにって答えた。だから言ってやった、ここで吸えばいいだろって。そしたらあれだ、お前の健康が心配だなんていいやがる。 何言ってんだ、オレはてめェの好きなレディじゃねーんだぞ、サンジ。 オレがレディに見えるか?ってさ、聞いてみた。 「あ?お前が?」 「……レディがー‥何ですって?」 「レディは雌のことじゃねェのかっ?」 「船医さん、雌って言い方はよくないわ?」 ウソップもナミもチョッパーもロビンも、多分オレをレディだなんて思っちゃいないだろうな。 「」 「あ?」 「気色悪いこと言わないで」 「そーだぞ−、思わず想像しちま‥ぅえ‥」 「失礼なヤツだなてめェは!」 でもまぁ、その反応は不正解じゃないと思う。だってよ、オレはゾロよりもタッパあるし、サンジより筋肉もついてる。髪だってルフィより短い、これを男と言わずして何と言う。 「お前、ンなこと言ってたらサンジに怒られるぞ?」 「そうよー。何でてめェがレディなんだクソ野郎、ってね」 「そうかな」 「「絶対」」 二人の息の合い方は姉弟なんじゃないかと思わせるほど。そんな息の合った二人に、は苦笑いを浮かべて甲板へ出た。 確かにレディなんて言われ方しちゃいねェけど、あの扱いはレディだろ?違う?煙草は吸ってるやつより周りにいるやつに害を及ぼすって、一度は聞いたこともある話。それに対してサンジが女を気遣うのはわかるんだ、今までそうだったし。ナミの前やロビンの前じゃあまり吸わない。吸ったとしても離れた場所で、それか風下で。あいつなりの煙草のマナーってのは、いつもいつも女性のみ適応。 それが何でだ。 『てめェに煙吸わせちまうだろ』 は? 『健康に悪ぃから』 はぁ? 『お前の肺が黒くなっちまったら困るしな』 何言ってんだお前。 もしかしたらオレを可愛いレディ視してんのかって思っちゃったら鳥肌モンだ。サンジを抱くことはあっても抱かれてやる気はさらさらねェぞ。 って何考えてるんだオレ。って何考えてやがるオレの下半身‥。 とにかく、お前の行動が不可解でしょーがねーのよ。 「おい」 「あ?」 「煙い」 「我慢しろ」 「てめェ‥」 その頃の船尾では、滅多に見ないツーショット。いがみにいがみ合う黄色いコックと緑の剣豪。 「邪魔なんだよクソコック!」 「あァッ?てめェだけの船尾か?ここァ!」 「てめェだけの船尾でもねェだろーが!」 「るセェ!嫌ならてめェが場所移せ!」 毎度飛び交う怒号は、前甲板に聞こえるはずもないので誰も止めに来ない。結局はゾロが舌打ち混じりに撤退するのがオチ。サンジはこうと決めたら梃子でもそこを動かない。 「前甲板行け」 「てめェが行け」 ゾロは煙草の煙が好きじゃない、好き嫌い云々より快く思わない。となると鍛錬中の荒い息でそれを取り込むことも不快極まりない。やはりここは己が撤退することになったと思うと、悔しさも出る。 「と交換すっか‥」 ボソッと呟いた言葉がサンジの耳を掠めた。同時、ゾロの襟首を掴み真正面で瞳を捉える。 「何だと?」 「あ?」 「?」 「あいつも体鍛えて、ッ、」 「から、場所交換って意味か?あァッ?」 「ンだてめェは!あいつァ煙に文句言わねェからいいだろーがっ」 「よくねェんだよ!」 バッと手元を乱暴に離せば、ゾロから離れて端っこへ行った。 「やれ」 「あ?」 「鍛錬でも何でも好きにしやがれ!」 「何言ってんだ」 「オレがここ、お前がそっち。煙行かねェから場所変える必要ねェだろっ」 つまりはあれだ、サンジは自分のベストポイント(船尾甲板のど真ん中)を外れ、一番端のかなり隅、しかも風下の方へと身を寄せる。ということは、ゾロに迷惑はかけないからと交換するなということ。 突飛なサンジの行動にゾロは少しばかり首を傾げたが、己の中で重要な問題でもない。鍛錬場所が確保できればそれでいい、先ほどの続きからまた鉄振りを始めた。 腹が立つ。どうしてかって、あれだ。 の前で煙草が吸えなくなったという、クセェ事実。 女性陣の中、が混ざって談笑してたのが聞こえた。一昨日、ラウンジへ戻ろうと扉の前に立ったあの時だ。 『煙草吸ってる時の唇な』 『煙草ぉ?』 『女性が煙草を吸うのは嫌じゃないのね』 『あァ、それぞれだろ。そんなことで女は選らばねェよ』 どうやら話の中身は、好きな異性の仕草辺りだろうと予測した。 『それにしても、煙草吸う唇って結構マニアックね』 『そうか?何か、誘ってるっつーかさ、エロい』 『あら、コックさんも吸ってるじゃない?』 『サンジ君は対象外でしょ。でも、女って男が煙草吸う仕草に弱いわよね』 『あら、航海士さんもそうなの?』 『そうじゃなくて一般論。よく聞くでしょ』 何だ、ナミさんはそうじゃないのかって。誰も見てないのにお約束通りガクってなってみた。 『でもよ』 『え?』 『サンジの口もエロいわな』 『は?』 『誘われるぜ、あれ』 瞬間、口に入れてた真新しい煙草を床板に落とした。 普段なら文句のひとつでも飛ばしてやるところだが、今回は勝手がいかず、どうしてか血が耳辺りに集中するような感覚が走って。 あとはご覧の通り、今までみたいにあいつの前では煙草が吸えない。妙な意識を持っちまって、どうしたらいいなんて誰にも相談できない。 オレが誘ってるように見えるって、んじゃあお前オレに誘われてんのかよ。もし本当に誘ってたとしてもどーするつもりだってんだ。 って何考えてんだ、オレ。って疼いてんじゃねェよ!クソッ‥ 深みに嵌る前に、もう一度あいつの目の前で煙草でも吸ってみようかと、無意味な決意をしてみた。
チェーンスモーカーの彼
05/04/22 × |