| Love you Sweet so Tender |
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見るたびにあくせく働いているコックさん。 彼は私の敬愛する仲間であり、恋慕する恋人でもある。 誰もいないはずの夜のラウンジ、訪れたらサンジが残っていた。どうかしたのかと聞かれ、棘の刺さった指先を見せる。見張り台に指を引っ掛けた時、ささくれた板に擦りつけた。そう経緯を話したら慌てた顔で消毒を始める。自分でできるからと言っても、そうはいかないと優しく棘を抜いてくれた。 さて、この人の寛いでる姿を最後に見たのはいつだった? 昼間は勿論、たまに訪れる夜の行為の最中も、彼は休むことなく他人への奉仕を勤めている。こんな言い方はナンだが、たまにはこちらにも奉仕させてくれと思う。 彼にとって、私との逢瀬がない夜は暇な時間。彼にとって、見張りがない夜は暇な時間。だから今こんなとこにいるのはおかしいはずなんだ。 「サンジ君」 「ん?」 「ありがとう」 「どういたしまして」 「何してたの?」 「朝食の下ごしらえ」 おぉ、そうか。料理人には知られざる仕事がまだ残ってるのか。は指先を手当てするサンジに、ご苦労様と労いの言葉を。言えばサンジは顔を上げる。 「ありがとう」 そう言って笑うと、再度指先に視線を戻した。 サンジはいつも忙しい。夜は最後まで後片付けや翌日の準備をする。朝は誰よりも早く起きて朝食の支度に余念がない。昼間はお子様チームやお姉さんチームの世話にあくせく。そんな彼はみんなと同じように見張りだってこなす。そして暇な時は休んでると言いながら新しい献立を考えてたりする。 疲れてないはずがないのだ、そう、疲れてないはずが。 だからって二人の仲を疎かにすることはない。二人で過ごした夜が明け、目覚めたら彼はもう隣にいない、なんてことは今まで一度もない。一人で起きる朝ほど寂しいもんはないと彼は言った。それはまぁ、前夜に恋人と過ごした場合の話だ。 『だから起こすかもしれないけど許してくれる?』 そんな彼の言葉に大丈夫だよと頷いたのを覚えてる。それ以降、サンジは朝ラウンジへ行く前にを起こすようになった。 静かに、優しく、甘く、彼らしい動作と言葉とキスで。髪を梳くように指を滑らせて撫でてくれる、静かな動作。オレは行くけど起こしにくるから寝てていいよ、優しい言葉。頷けば微笑とともに啄ばむように振ってくる、甘いキス。 忙しい彼は優しい。 それは誰にでも言えることで、自分だけではないけれど。 それに嫉妬し不満に思うより誇りに思う、彼を尊敬する。 だけど胸の奥で痞えるのは、 ねぇ、みんなに優しくしてて疲れない? いつも人のために動いてばかりで疲れない? だから私が優しくしてあげたいと思うのは、おかしいことじゃないんだよ。 「さ、これでいい」 「サンジ君、ちょっといい?」 「ん?」 手当ての済んだ指先を見つめ、サンジに視線を移した。サンジは首を傾げて立ち上がるの動作を見つめる。 「座って」 「え?」 「いいから座って」 キスさせて、直球で言えば目を丸くした。その顔がやたらと可愛くて、もういちどキスさせてと笑う。 「え、っと、オレに、」 させてくれる?いつもの彼だ。そんなサンジには首を振り、今日はあたしにさせてと。サンジの肩に届かない手は、彼の腕を掴んで椅子に座らせる。 「ちゃん?」 「黙って、静かにして、いいでしょ?」 「あ、あぁ」 イヤダ、とは、彼の口から出るはずがない。彼女を危険な目に合わせることならまだしも、彼女には全く危険はない。むしろ危険があるとすれば自分だとサンジは思った。椅子に座ったはサンジの足を割り、立ったまま頭を抱く。ゆっくりと髪を梳くように静かに撫でる動作にため息が零れた。 「いつもご苦労様。ありがとう、サンジ君」 サンジは頭上からの声に首を上げ、視線を合わせようと試みる。しかしその優しい声に反応すればふいに唇が振ってきた、唇ではなく目の上に。 「サンジ君はいつも優しくて大好きだよ」 「オレも、ちゃんのこ、」 「いつも聞いてる。だから、今日はあたしが言うんだ」 肩を竦めて笑って見せるに、サンジは諦めて肩を下ろす。どうぞと促すようにを見つめて呆れ笑いを浮かべた。これも彼の優しさなのだと、思えるのは彼をよくわかってるから。 「たまにはさ、サンジ君」 「ん?」 「我侭、とまでは言わないけど」 自分の望むことを誰かに言ってみて? 髪を梳く手は柔らかい。梳いてる髪は柔らかい。 いつもみんなに優しいと疲れちゃうよ、声は柔らかさに乗って耳に入る。 「今だってみんなのための下ごしらえ」 「それはしなきゃならないことだよ」 「そうだけど、誰かが手伝えば早く終わるよ」 「そんなことさせられないよ」 「それがいけないの」 「いけない?」 「直接料理に触れるのはサンジ君がいいとしても」 それ以外にできることはあるよと言った。 食材を切るのはサンジ君、調理器具洗うのは誰かに任せる。味付けとか炒めるのはサンジ君、配膳は誰かに任せる。片付けも誰かと一緒にやればサンジ君が少しはゆっくりできるのに。言えばサンジはキョトンとしてを見た。 するすると撫でる頭の下。 何もなかったただの空間にサンジの声が小さく響く。 「本当は、」 「ん?」 「下ごしらえはとっくに終わったんだ」 「えっ?」 怪訝な顔でサンジを見ようと、しても彼は上を向いていない。 「今日ちゃんが見張りだから」 だからラウンジにいたとサンジは言った。 「心配しなくても平気なのに」 言ってるそばから優しさの告白。そんないつも通りの彼に思わず笑みが漏れる。 「心配じゃなくて」 「え?」 「夜這いをかけようかどうしようかって」 考えてた、そう言って頭を上げた。見上げながらの笑みは少しだけ心臓にヒットする。ちゃんから来てくれるとは思わなかったから焦ったよ、微笑むサンジの顔が完璧に心臓に突き刺さった。 「……戻る」 「え?」 「もう、戻る」 「見張り‥?」 「うん」 その空気のバツの悪さと自分の暴走を如何に止めるか。 一旦外へ出て冷たい空気を吸い込むに限る。 の行動に少しだけ名残惜しさを感じた。サンジは離れるの腕を掴もうとするがそれがままならず、指先が少し触れただけで腕が退けられる。の言うように、望みを口にすればいいんだろうか。 「ちゃん」 ピタッと止まった手、振り返る顔。 「なに?」 「もう少しだけいてくれないかな」 「……何で?」 彼女の言うように望みを口にしたのに、彼女はそれを諾否しない。 疑問で返ってくるとは思わなかった。 一瞬息を詰まらせたサンジは目を泳がせて微笑を。 「ちゃんから離れると、」 「離れると?」 「……頭痛が……」 「……はぁ?」 酷い頭痛に襲われる、まるでどこかの鼻の長い彼のようなセリフ。は目を丸くしたままサンジを見て、幾分か時間が経過したところで噴出して笑った。 まだ自分の望みをはっきりと言えない彼が可愛いと思った。 正直に言えるまで、もう少しかかるかな。 でもそれが、サンジ君らしいのかもしれない、そうも思った。
サンジをどーにか書きたかった。攻めてみたかった。
05/03/24 × |