コルドンルージュ・タイプS

 

 

あたしが悪いんじゃないんですけど。

「花火、」
「花火より面白いことならいっぱいあるよ?」

ない。絶対無い、言い切れる。花火のほうが絶対に面白い。

「幼い顔に口紅なんて、誘ってるようにしか見えねェぜ?」


前の島で口紅を見つけた。ロビンに付き合って、(というか勝手についてって) 入った店。服や何やらごちゃーって売っる小さなお店だった。
が見つけたのは口紅。
今日降りた島は夏島で、毎月行われてる花火大会に遭遇。そんな楽しげな行事に、我らが船長が胸をときめかさないわけはなく。みんなで楽しむこととなった。
そして、買ったばかりの口紅を。

「あら。なかなか似合うじゃない」
「そうね。いい色だわ」
大人っぽく見えると、ナミとロビンからは誉められて。男性陣の反応は薄かったけど、そうそう悪いものではなくて。

でも、

「やめた方がいいんじゃない?」

言ったのはサンジ。

「何で?似合わない?」
「似合わなくはないよ」
似合わなくはないけど、やめた方がいい。煙草を消して言うその仕草が、の癇に障った。
「似合わないならそう言ってよ」
「だから、」
「おかしいんでしょ?変なんでしょ?」
「オレが似合わないって言って、ちゃんが口紅落とすなら言うけど?」
「……ッ、なに、それっ」
「それつけたままで花火見に行くのは勧められないだけだよ」
変だとも似合わないとも言わないのは、いつもの彼の紳士腰の所為だと。は思って頬を膨らます。その後、島に着く前も着いてからも、サンジと目を合わせることはなかった。


そして今、サンジの言葉と自分の行動に少し後悔しているところ。

「よく見りゃまつ毛も長い」
「子どもみたいな顔して、犯罪だなァ」
「違、っつーか、掴まないでっ」
この島じゃ見ない顔だと、そう腕を掴んだ男たちがいた。クルーの群れから離れ、屋台のお菓子を物色していた。本来戦闘能力など持ち合わせていない彼女は、あっさり捕まってしまったのだ。
「花火っ!」
あくまでも、久々に見る花火第一。こんな裏路地に連れ込まれたら、花火を見るどころじゃない。
「また来月もあるから」
「そん時見なよ」
「来月なんて見れない!離して!」
離して離してと連呼して、きつい手が離れたのは声がしたから。決して、男が諦めたからではない。


ちゃん?」

聞き覚えのある声。
だけどそれはいつもと少しだけトーンが違った。

「サンジくんっ」

ヒョコッと顔を見せるように、こちらを覗いた主はサンジ。相変わらず赤い小さな光が彷徨っている。何だてめェと男たちが聞けば、少し間を置いて、連れなんだけど、と。
「何でそんな平然なのっ?」
ちゃんがオレの言うこと聞かないからこうなるんだよ」
「な、そんな、……聞か、……助けてくれないの?」
「どうしよう?」
いつものサンジなら、こんな間を持つこともなく助けてくれるはずだ。
見知らぬ男たちの間に佇むを、こんなに長い間放っておくはずはない。それをさせたのは自分なんだと、は自分の唇に手を当てる。
「う、助けて欲しい、です」
「はい」
「ご、ごめん、」
「口紅落とす?」
「落とすから助けて」
「了解」
こんな時でさえ口紅なのかと。は思ったが、口に出せるはずもなかった。


「………サンジくんもさ」
「んー?」
壁に寄りかかって煙草に火をつけるサンジに言う。
「ゾロと大して変わらないよね」
「は?」
「凶暴さは」
地面に、九の字に這いつくばった二人の男を見て苦笑い。秒殺と言うか瞬殺と言うか。とにかく、両方とも一撃で沈んでしまったから、数える時間もなかった。
そんなの言葉に、酷ェなと肩を落としたサンジは、煙草を銜えて顔を上げる。そっちの方が酷いじゃん、そう笑った。サンジの指は、その顎を軽く傾けた。
「口紅」
「……ぐ、落としますよう‥」
「何で口紅なんか?」
「大人っぽいでしょ?」
「あぁ」
否定する言葉が返ってくると思っていたは少し目を見開き。同時にサンジは唇を近づけて声を発す。
「だから、つけて欲しくなかったんだ」
「に、似合わないって、」
「それはない。もうつけないって約束してくれるか?」
「でも、」
「でももクソもあったもんじゃねェ」
心配だと、サンジの指は唇をなぞった。指先が少しだけ紅い。
「………船の上なら、」
「見せんな」
「へ?」
「ルフィにも、ゾロにも、ウソップにも。チョッパーにもだ」
「も、もったいないじゃん。折角かったのに」
「オレの前だけでつければ?」
「サンジくんの?」
「オレが見てあげるから」
「そんなの、」

言い終わる前に、その話の原因を纏った小さな唇が塞がれる。

それは深くなく。
例えるなら一口水分を取るような、浅いキス。


「っ、」
「な?」
「…………??」
何も言えないでいるを捉えた目は至極優しく。
そして甘い言葉を口にするのだ。

「落とすのは、オレの役目ってことで」

そう囁いた唇に、自分の紅がうつったことに気づいたのは、
二度目のキスの後だった。

 

 


カウント111111
03/08/19  ×