| I So Wanted to |
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すこーしだけ、愛がこもってると思ってくれればそれでいいから。 大きなケーキを、サンジくんが作った。それは船長の誕生日ケーキで、チョコやバニラアイスなんか乗ってたりして。ゾロのときはお酒をベースにしたケーキ、ナミのときはフルーツベース、チョッパーのときは可愛らしいケーキ。あたしのときは、生クリームたっぷりのケーキを作ってくれた。 船長へのバースデーケーキは、それはそれは大ぶり。 「うひょー!なぁなぁサンジ!全部オレのか?」 そのルフィの言葉に、ちょっとだけ胸の端っこが痛いのです。 「場所?」 「うん。こっちの隅でいいから」 「いや、隅なんて言わないで普通に使って」 「でもそれじゃサンジくんの邪魔になるから」 「何作るの?」 「ケーキ」 「ケーキ?」 「たんじょうび」 「あぁ。クソ羨ましい。あいつに?」 「そう、あ、でも、サンジくんも作るんでしょ?」 「ちゃんに貰ったほうが、何十倍も嬉しいはずだよ」 そんな会話が交わされた、お昼のキッチン。思い出しながらラウンジを見上げると、ラウンジ前の手すりに掛かる手作り看板。 HAPPY BIRTHDAY LUFFY 五月五日、それはいつもと少しだけ違う日。 イーストブルーじゃ、葉っぱにくるんだお餅を食べる日だってサンジくんが言ってた。葉っぱを浮かべたお風呂に入る日だと言ってたのはナミで、大きな布でできた魚を天高く飾る日だと言ったのはゾロ。ウソップは身長と鼻の長さを競う日だとか、嘘かホントかわかんないこと言ってた。 それで、船長ってば笑いながら、オレが生まれた日だぞ、とか言った。 サンジくんの作ったケーキは、それはそれは立派なもので。ラウンジの冷蔵庫にしまってあるケーキなんて、見たらきっとかすんじゃう。 あぁ、嬉しそうだなあ、ルフィ。 「んじゃあいっただっき、」 「待ーて」 大手を振り上げケーキに突進していくルフィを、ガシッと捕まえたサンジくん。 「んおっ、ンだよ」 「誰がてめェだけのだっつった」 「オレのじゃねェのか?」 「確かにてめェのバースデーケーキだが、みんなで食うために作ったんだ」 今はルフィのお誕生日会中。一般のお誕生日パーティなら、ひとつのケーキをみんなで分け合うのは当たり前。 「オレの誕生日だぞ?」 だけどルフィの常識は少しばかり違うらしい。他のものは分け与えても、己の誕生日に用意されたケーキは丸ごと頂きたい。なんという貪欲な、独り占め精神の大きなキャプテンキッド。 「みんなで食うんだ。わかったか?」 「オレが一番でけェの食っていいのか?」 「あァ、そりゃ構わねェ。だけどみんなで食うために作ったんだからな」 「おう」 渋々といった感じでサンジくんの言葉に頷いたルフィ。そんなルフィにサンジくんは少しだけ眉を上げて笑う。 「ちゃんと、用意されてるから心配すんな」 「ん?」 「ね、ちゃん」 瞬間、自分が真っ赤になったのが、鏡も見てないのにわかった。 みんながあの言葉でその辺のことを汲み取った。ただ、その言葉の意図がはっきりと理解できなかったのは当の本人である船長。ゾロでさえ、あたしの顔を見てニヤニヤしてたのに (ムカついたから殴ってやった)やっぱり船長は鈍感なんだ、冒険と食べ物にか興味がないお年頃。否、お年頃とか関係ないんだろうな。あと五年、十年経っても、ルフィはきっと今のままなんだ。 「」 「あっ」 ラウンジ、冷蔵庫の中からケーキを取り出そうかどうか迷ってると声を掛けられた。 「ルフィ、」 「サンジがな」 「サンジくん?」 「がここにいるって」 「あ、あぁ、うん」 「んで、」 「うん」 「プレゼント貰ってこいって言ったぞ?」 まったくもう、何だか余計なことをしてくれるじゃないのサンジくん。あんな大きなケーキの後、渡すにも少しだけ恥ずかしいこの小さなケーキ。あんな風にみんなにバレた後、二人っきりになることだって恥ずかしい。 「プレ、プレゼント、」 「おう。くれんのか?」 「あ、あの、用意は、してみた、けど」 「けど?」 「あんまり、喜ばないかも‥」 「おめーがくれるんなら何でも嬉しいけどな」 「でも‥」 でも、って思って、チラッと冷蔵庫を見た。そんで、次の瞬間には、冷蔵庫の取っ手を掴む手が固まる。 「ルフィっ」 「そん中か?」 反則だと言いたいくらいの速さで、隣に来てたルフィが肩に頭を乗せてた。いつもなら平気なことなのに、今の心情じゃ耳まで熱くなってくる。いらないくらいにドキドキする心臓を、どうやっておさめようかとも思った。回転が速くなりすぎて、逆にわけがわからなくなった頭を振って、 「た、んじょうび!」 「お?」 「おめでとうっ」 冷蔵庫を開けて、中に入ってる小さなケーキ。 中を見たルフィはあたしから体を離すと、その場にゆっくりと座り込む。中に佇むそれとあたしを交互に見てから、貰っていいのか?そう聞いてきた。ルフィに作ったの、言えばもう一つだけ質問、オレだけのか? 「そ、そうだよ。ルフィの。小さいからみんなで食べられないでしょ」 「が作ったのか?」 「美味しくないかもしれない‥」 「が作ったんだな?」 「……うん」 「そっか」 笑顔が、すごく嬉しかったんだ。 ありがとなって笑うその顔が見れただけで、後悔はなかった。 いくら恥ずかしくても、サンジくんのケーキと比較して見劣りしても、ルフィが喜んでくれたその顔が見れただけで、本当に嬉しかった。 打ち明けられない小さな恋心を、今は理解してくれなくても、そばにいるルフィの笑顔が、あたしにはなによりだった。 だから、まぁいっかって思った。
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