パンドラの勇者と姫君

 

 

開いた宝箱が空だと知って、一気に崩れ落ちたオレの気持ちがわかりますか。
まるで新手の詐欺じゃねーかと思ったりもしたが、何を取られたわけでもない。参加料を払ったわけでもなけりゃ、参加は自由ときたもんだ。だから般若のような顔をしたナミでさえ、結局何も言えなかった。

は甲板にごろりと寝転んで怪我した足首を動かす。
「おごっ」
痛いのなら動かさなきゃいいのに、カウチに腰かけるナミの視線が言っていた。
ー」
「んー」
「平気か?」
「おう」
ペタペタ聞きなれた足音とともに現れたのはルフィ。先ほどまでパートナーを組んでた男だ。

立ち寄った島で行われていた宝箱を探すという催し物に参加した麦わら海賊団。放蕩船長のお守りをすることになっただったが、そういった冒険や宝捜しの部類に、船長は鼻が利くらしいこともわかっていた。案の定、誰よりも先に宝箱を発見したルフィ&チーム。島を知り尽くした島民よりも先に発見できたその喜びはひとしおだった。
ひとつだけ悪いことがあるとすれば、捻った足のせいでルフィに負ぶわれていたことだろうか。歩けるという自分に、遅いとだけ言ってルフィは背負った。身長的には自分の方が幾分か高いはずで、でもまぁ体格は同じくらいか。とにかく、背負われてることが少しばかり癪だったのだ。今となったら、背負われてたお陰で見つけるのが早かったのは確かだと思うが。


「あーゆー時はこう、ぐにってな」
「オレゴムじゃねぇし」
「おぉ、そっか」
ため息零れるの隣に腰を下ろし、いつもの笑みを向けるルフィ。暇なのかと聞かれ、足あんま動かせねーからと答えればジーっと足首を凝視される。むず痒いそれに眉を顰め、はルフィの額をパチンと叩いた。
「見んな」
「見ると痛ぇのか?」
「そーじゃねーけど」
「じゃあいいだろ」
「見たって治んねーだろ」
「そーだけどよ」
「あっち行けあっち」
「オレいたら嫌なのか?」
「ちげーけどもー」
何をするにも楽しそうな船長だ、放ったまま側に置いても大して害はない。まぁいいかと諦めにも似た表情を覗かせて、は小さく息をつく。

「にしても」
「ん?」
「空だったな。あれ」

参加した宝箱探しで一番に見つけたのはいいのだが、箱の中身は空だった。金目のものどころか食い物さえ入ってないそれに、怒ったのはオレとナミくらいか。
何か取られたわけでもないからとナミの怒りも今は大分治まったようで、あの時感じた自分の怒りも、そんな怒ることでもねーなと同じように治まっている。

「入ってたじゃねーか。紙が」

紙、

「入ってたけど」


ただ一枚の紙。


書かれていた言葉はあれだ、

『冒険という楽しみ、今日の思い出が一番の宝』

ありそうな話である。

どこぞの子どもたちを集めたキャンプのオリエンテーリングなんかでありそうな、紙一つに書かれた言葉に納得するのは騙されやすいガキか物分りの良すぎる大人。腹が立った時点で自分はどちらの部類にも入らないのだとわかった気がした。


「ったく」
「いいじゃねーか。面白かったし」
「オレ足怪我してんだぞ」
おぉそうだ、オレの怒った理由の一つがそこにあるに違いない。物理的なそれが見つかれば、その怪我ってのも救いがあったのかもしれないが、手に残るなんらかがない状況で、じゃあこの怪我は何のためにしたのかって話になる。宝があれば名誉的勲章になるはずだった怪我なんだ、これは。
「何が思い出が宝だ」
「そっか?オレは楽しかったけどな」
「お前は冒険なら何でも楽しいじゃねーか」
「でもお前と二人なんてめったにねーだろ?」
「あ?」
と二人で、楽しかったぞ?」
「はー‥ァ?」
はいつもチョッパーだとかゾロだとかと一緒にいて、自分と行動することはあまりない、そうルフィは言う。思い起こせば確かにそうかもしれないと、町に下りてもチョッパーと買い物に行くし、夜暇な時はゾロなんかと酒を交わすことが多いかもしれない。
「そうかもな」
「だろ」
「お前だってサンジとかウソップといる方が多いじゃねーか」
「そーか?」
「飯めしーってサンジにくっついて、ウソップはー‥年も近ぇからか?」
「じゃあやっぱオレたち一緒にいんの少ねーんだ」
「あー?」
今までそんなこと考えたこともない。別に考えることでもないし、考えたところでじゃあ一緒にいようっていう問題でもない。
「お前そんなこと考えてんの?」
「ロビンがオレのこと機嫌いいって言うから」
「ロビンが?」
「だからと二人でいたからって、今のこと言った」
「何か一歩間違うと誤解されんぞ」
「そしたらシットだって教えてくれたんだ」
「シット、嫉妬?」
「ヤキモチっつってた」
「……それ、」

すでに誤解されてんじゃね?

「お前ロビンに変なこと言うなよ」
「でも当たってんだぞ」
「いやいや、あのな」
がチョッパーとばっかいるとオレも入りたくなる」
「仲間意識っつーもんだろ」
「お前もさっき、オレがサンジやウソップといる方が多いっつったよな」
「そりゃあお前が、」
「シットか?ヤキモチか?」
「ありのまんま言っただけだ。なぁ、ルフィ、ちょっと待て」
白の状態のルフィの頭に、ロビンが入れた知識が悪い影響を及ぼしてる。直結しちまうんだぞ、こーゆー性格の輩は。そう、さっき言った騙されやすいガキってやつだ。
「ルフィ、違うから。お前のそれ嫉妬じゃねェ」
「そーなのか?」
「あぁ。違う」
「んじゃ、何だ?」
「何だって言われても」
「シットするくらい好きなんじゃねーのか?」
「……ロビンが言ったのか?」
「おう」
「……クソ。‥退屈してんのかな、ロビンも‥」
「ん?」
「ルフィ、そりゃ恋愛感情にあるもんで、オレとお前にはない」
「何でねーんだよ」
「ねーの。そーゆーのは」
「あるかもしんねェだろ」
「ないっ」
「あったらどーすんだ」
「ねェ。あーもーお前どっか行け」
「いたらダメか?」
「ル、」
「オレいたら嫌か?」

さっきもしたな、この会話。

「嫌だ」
「………」
「お前が行かないならオレ行くし」
少しだけ距離を取ってその場に立ち上がれば、急な痛みが足首を襲う。一瞬顔を顰めると、膝や手をつく前にルフィが腕を取ってた。転ばなかったことにありがとうと言うべきか、それとも放せと言うべきか。

「平気か?」

オレだって常識のある人間です。
支えてもらって放せなんて言えるわけありません。

「あー、さんきゅ‥」
「んでよ、」
「あ?」
「こーゆーのが嬉しいのってな、やっぱ好きってことなんだ」
「こ、」
「怪我してたお前背負ってたの、ここんとこドキドキしたぞ」
「お前何言って、」
「やっぱあれ、宝箱だな」
親指で自分の胸を指して笑うその顔、それを見て自分の鼓動が速まったと思う前に、ラウンジの前でティーカップを手にしたロビンが、笑ってるのが見えた気がした。

 

 


えーリハビリリハビリ。
06/02/01  ×