La Lip Lop Lup

 

 

冬海域は好き、でも嫌なことある。
カサカサする唇が嫌で嫌でたまらない。乾燥の季節ということで、唇ガッサガサなのだ。だからナミちゃんのくれたリップクリームは命綱。
短時間置きに塗りたくる私は可愛いでしょう。女の子みたいでしょう。
ぷるぷるしてて、甘い香り。

「んむー‥」
甲板で海を見ながら寒さを耐えて澄んだ空気に身をさらす。
冬海域の空下は少し肌寒いけど、空気は凄く美味しいと思う。水に例えれば、山から流れてくる雪解け水のような。
あぁ、んむー、だけど、うん、あれね。唇を突き出して、んむーってリップクリームを塗る。塗らないのはご飯の前くらい、だって味がおかしくなっちゃうから。
肩を落としたはメインマストに背を預けてポケットにしまった。
リップクリームは前に立ち寄った港でナミが買ってくれたものだった。ここまでの航海の中、冬海域になると必ず唇を切るに。お世辞にも気前がいいとは言えないナミの、珍しい心遣い。は目をキラキラしてありがとうと忠誠を誓ってしまいそうになったとか。

「何やってんだ?」
「んぅえぃ」
塗ったばかりの唇をぷにぷにと玩んでる時だった。斜め後ろからの声に振り向いた、マストの逆側、ルフィが腰を下ろしてる。
「口んとこピカピカだぞ?」
「うん」
「こないだっからピカピカ多いな」
「多い?」
「おう。んで、甘ェ匂いもする」
グンと唇を覗かれると少し気恥ずかしくなるのは年頃だからしょうがない。はちょこっと頬を赤く染め、顔を背けた。そんなに、何でそんなピカピカしてんだとルフィは聞く。
「これリップクリームなの」
「りいぷ?」
「リップ。口がガサガサだから切れないように塗るやつ」
「切れんのか?」
「冬海域になると切れるっていつも言ってんじゃん」
「そうだったか?」
「嫌ねー。船長だったらクルー一人一人に気をお配りっ」
言えば肩を竦めて見せた。だけど目はまだの唇を凝視している。

「いや。塗らせない」
「だってそれ甘ぇ匂いだぞ」
「だからって何。あげない。あたしの大事なのなんだから」
折角ナミちゃんが買ってくれたのに、なくなったら困ると喚いた。隠してるポケットを探られる前に、早々この場から退散した方がよさそう。は立ち上がろうと片手を床板につく。と、振れた頭がルフィの顔の前にひょこっとあらわれた。
目の前の顔にちょっとだけ目を見開くと、ルフィは笑う。いつもの笑顔で笑って、が次の動作に出る前に唇に何か這わせた。

「うぶ」

布だ。服の端の方を摘んでの唇を拭っている。

「んば、何すんのっ」
「これでピカピカにするよりもっといい方法があんだ」
「は?」
少しだけ角度を変えた唇が、自分の唇に迫っていた。
何だこれとか思う前に、自分がその角度に合わせてることに驚いてしまう。唇が届きやすいように角度を少しだけ変えてみた。

届いた唇は、少し触れた後に離れる。
また触れて直ぐに離れる。
何度かそれを繰り返せば、今度は舌先でなぞられた。
少しだけ傾げた首をそのままに、ルフィは小さく唇を吸う。

閉じた眸に写る影が消え、ゆっくりと目を開ければ冬の灰色雲が視界にあった。



「ガサガサするか?」
「……しない…」
「だろ?」
「……」
「もっとするか?」
「……しない、ばか」
唇がそわそわする。手を当てればふにふにぷにぷにして、でも何かもどかしい。
もう一度リップを塗ろうと思ってポケットの中を探った。探ってると、ゆっくりルフィの唇の感触が心臓に届く。
もったいない気がして、リップが塗れなかった。

 

 


2005年ルフィ誕生日記念に書いたお話。
05/05/12  ×