Lion Heart Lion Heart

 

 

お前じゃ無理だ、声の後海に潜ったのはウソップだった。
何もできない自分に腹が立つと同時、言われぬ虚しさが襲った。


「なー、あれどーすんだよ」
「仕方ないでしょ。梃子でも動かないんだから」
「ほっとけ。すぐ飽きるだろ」
「ビックリして気失ってるだけだから平気だって言ったんだけどな」
「夕ごはんの時には目も覚めるでしょう」
「起きた時にあったかいもん食わしてやんねェと」
「ルフィー!あんた無理に起こすんじゃないわよ?」
「飯できる前にはとっととラウンジ来んだぞっ」
各々、言いたいことを言いたいだけ言って格納庫から出て行った。そんな六人に目を向けるでもなく、ルフィは座り込んでいる。
海で溺れて意識を失った少女の枕元にただ座り込んで肩を落としていた。
その表情はいつもの明るい彼の表情とは幾らか雰囲気が違い、しかし何と言ったらいいか、彼女の心配をしている表情とも違う気がする。

数時間前まではこんなんじゃなかった。
いつものように軽口言い合って、サンジの作ったおやつを食べて。二人を挟むようにチョッパーとウソップも座って、いつものように四人で釣り。そんな中、珊瑚礁でできた浅瀬に突然乗り上げてしまったゴーイングメリー号。誰も予測できなかったその場面で、は思わず立ち上がった。そのまま海に落下すると思わなかったんだから立ち上がったんだろうけど、微塵も思わなかったことが現実のものとなって突如現れることはある。
隣から伸びてきた手に掴まることができなかったの腕を掴み損ねたルフィはそのまま海へと飛び込もうとするが、ルフィが飛び込むのを、ゾロが後ろから押さえて止めた。逆側に座ってたウソップが海へと飛び込むのを見ながら、嫌な気分になった。嫌な気分というのはいくらか語弊があるが、いい気分でなかったのだけは確かだ。


未だ納得いかない顔をしたまま、ルフィは眠るの髪を撫でる。撫でても起きない様子を見て聊か首を傾げるが、船医が平気だと言ったんだ。だから然程心配もしていない、すぐに目は覚めると自分の中の勘も告げてる。

何がそんなに気に入らないって、自分でを助けることができなかった。

‥」

掠らなかった手、伸ばすより先に落ちていった体。そこじゃない、問題はそこじゃないんだ。助けられる一と二を通過しても最後の三がある、海の中に飛び込むこと。自分にはそれができない。もどかしいのと自己嫌悪、普段頻繁には感じないそれを感じている最中。

言いたい言葉、


「ん‥」
「お」
己の手の中で振れてた髪が、今度は彼女の意思によって振れる。ゆっくりと目を開けたは毎朝女部屋から起きてくるあの顔でいた。
「うぁ、れ、髪濡れてるー‥」
何だ?と自分の指先を髪に絡めるをただ見てるだけのルフィ。すぐに声をかけてこなかった船長にが気づいたのは、上体を起こした時に首を動かしてルフィを視界に入れたのが初めてだった。
「あ、ルフィ」
「起きたな」
「へ?──‥あ、」
あたし海に落ちたんだっけ?素っ頓狂な顔でそんな風に言う。ルフィはの言葉に笑みだけで答え、濡れた髪の毛をぐしゃぐしゃと撫でた。
「いやぁだー。ね、ルフィが助けてくれたの?」
「オレ?」
「でしょ?」
「……いや、」
一度だけ小さく息を呑んで、助けたのはウソップだと呟く。
「そっか」
「……おう」

言いたい言葉は何だ?

「じゃあ後で助けてくれてありがとう言わなきゃ」
頷くにルフィは視線を合わせた。

僅かに口を開き、掠れた声が伝えたのは、


ごめんな


「は?」
「ごめんな、ごめん」
「何が?」

言いたい言葉、

「オレ、助けてやれなかった」
「何言ってんの」
「隣にいたのに手も届かなかった」
「そりゃタイミングってもんがあるじゃないの」
「海に落ちても助けてやれなかったんだぞ?」
「泳げないくせに何言ってるかな」

ごめんとか、言いたかったんだろうか。

「あのね、できることをすればいいのよ。わかる?」
「わかんねー」
「ウソップが助けてくれた、診てくれたのはチョッパーでしょ?」
「おう」
「きっとサンジ君がご飯を用意してくれる」

そうじゃねェんだ、きっと、

「あたしはウソップにもチョッパーにもありがとう言うのよ」
「サンジにも言うんだろ?」
「うん。それと、ゾロにもナミにもロビンちゃんにも」
「あいつらにもか?」
「心配してくれてありがとうって。ルフィだって、」

言いたい言葉は、

「心配しててくれたんでしょ?だから、」
「ゴメンじゃねェんだ」
「は?」
「謝りたいんじゃねェ」
「……うん?」

助けてくれてありがとう。
診てくれてありがとう。
ご飯に気を遣ってくれてありがとう。

心配してくれてありがとう。

みんなに言うありがとう、だけどきっとあそこで守れてたら。そのありがとうはオレだけの言葉だったかもしれないと。


「わかんだぞ?お前の言うこと」
「言うこと?」
「やれることやりゃいいっての」
「あぁ、うん」
「オレにできないことあるし、オレにしかできねェこともある」
「そうだよ」
「一人で何でもできるわけねェんだ。役割りってのもわかる」
でもなと、その逆接続語に続くのは言葉じゃなくて行動だった。掴んだ腕を後方まで引き寄せ、自分の胸の中に収める。一番近いところに感じる、海の香りのする髪の毛に鼻をちょっとだけ埋めた。

「ルフィ?」

言いたい言葉は、

「オレがを守りてェって思った」


仲間だから、仲間を守るってわかってる。それが一番いいことだと思うし、別の誰かが助けるのを待ってるなんてしねェ。助けられるなら自分が助ける、仲間だから。頭で考えれば考えるほどそれは正論で、でも自分の感情のどこかとはかち合わない。助けたかったという気持ちがある。あいつを助けたかった、守りたかった気持ちがある。

「ウソップでもチョッパーでもねェんだ」
喋るルフィの口元での髪が揺れた。
「サンジでもゾロでも、ナミでもねェ。ロビンでも」
抱かれる肩はやけにきつくて、は身を捩るがルフィはお構いなし。いや、お構いなしじゃなくて、の身動ぎなんかには気づいていない。

「お前を守るのは、オレだ」





それは単なる独占欲なのかもしれないと、告白じみた空間でふと思った。でもルフィはそんなこと考えなしに言ってるんだってわかる。自分のとってる行動の意味もわかってないんだと思うから。
は自分をきつく抱くルフィの腕に手を添えて、ポンポンと撫ぜた。
「ルフィ」
「…ん」
「嬉しいよ」
「嬉しいのか?」
「うん、ありがとう。あたしもルフィに守ってもらいたい」
「あのな、それはな、」
「わかってる。できることとできないこと、役割りもある」
「そーなんだ」
「でもあたしを守りたいって言ってくれたのは嬉しいよ。ありがとう」
あんまりわかってないけど、明確じゃないだろうけど。気持ちは通じた気がした、は思って小さな笑みを覗かせる。
「とりあえず、」
「ん?」
「起きるまで傍に居てくれたのはルフィだけでしょ?」
「……おう」
こんな気持ちにさせてくれる『役割り』をもってるのはルフィだけだって、伝えたいけど、同じくらい不器用だから伝え方がわからない。
この気持ちの伝え方はわからないけど、ひとつひとつ伝えていこう。

まずは、

「傍に居てくれてありがとう」

 

 


ルフィ目線一本を目標にしたのに無理でした、うぅ。
05/05/05  ×