何故故知れるその別れ

 

 

共有した時間は、その紅い紅い痕。

食べてしまえば私の中に貴方は残るのかしら。腕を持って、小さく口づける。この逞しい腕に、私が抱かれた記憶は新しい。
「もしそうなら、食べてしまいたい」
「それは無理だ」
「………冗談よ」
冗談よ、冗談。冗談だけど、こんな時くらい言って欲しかった。
肯定して欲しかった。
「忘れるわ。貴方のことなんて」
「あァ」
「人生、たった二ヶ月のことだもの」
「……あァ」
自分の髪より長いその髪を、彼女は見つめる。
男は、今まで感じたことのない感傷に襲われるが、自分の道にこの感情は必要ではないと、扉を閉めた。その扉にを隙間があれば、或いは彼女が隙間を作ろうとすれば、心は変わっていただろうか。

そうではないのだ。





水平線の手前、小さくなる船を見つめた。
この二ヶ月の記憶は、人生においてほんの少しの時にしか過ぎない。こうしているうちにも私たちの時間は、全ての時間は休むことなく進んでいく。
そしてまた、その時間の割合は小さくなってゆく。
彼の背中につけた紅い痕は、時間と共に消えるだろう。

こんな少ない時間なのに、あぁ、馳せる心地が大きいのは今だからよね?
一年もすれば、半年もすれば、きっときっと、きっと忘れられるに決まっている、消えるに決まってる。
戻りもしない人を想って暮らすなんて、私にはできないもの。

「自業自得だわ」

それに答える声はもういない。


自業自得、私が悪い。
忘れなければならない記憶が多いのは、
消さなければならない想いが強いのは、

全部自業自得。

全てを忘れたいのにその記憶が多すぎて、そうしなければずっとそれに縋って生きてしまいそうなんだもの。全てを消したいのにその想いは強すぎて、そうしなければずっと想いを引きずってしまいそうなんだもの。

嗚呼、自業自得。








小さくなる島を見つめるその黒髪の男も、馳せる。

彼女の背につけた紅い痕に
時間と共に消えゆく、あの紅い痕に。

 

 


初ベックマン夢、名前変換の意味が無い。
04/02/05  ×