勿忘草よ永遠に

 

 

愛しき
  人のまきてし しきたへの
    我が手枕を まく人あらめや






『わりーな。オレよりいい男がいっぱいいるだろ?』

彼はいつも決まって言う。
どんな女に言い寄られても、決まってそう言う。

「フラれたの?」
「あんたでもダメなの?」
「フラレたフラれた言わないでよ」
「フラレたんでしょう?」
「うるっさいわね!」
「ま、しょーがないわ」
「コック見習いのあの子もフラレたのよね」
「アレとあたしじゃ質が違うもの」
「ナースの赤毛姉さんもフラレたのよ」
「えっ」
「うそっ」
「本当にっ?」
「ありえない。姉さんフルなんて」
「姉さんでダメなんだから、諦めなさいよ」
「ええぇぇ〜、もぉ〜、………エースー‥」

そう、彼はいつも決まって言うんだ。
『他を当たってくれ。オレなんか遊びの対象にもなんねェさ』
遊びで、彼をものにしたい女なんていないのに。

「おーい。エース」
「あァ?」
「お前またフッたんだって?」
「あー‥、知らねェ知らねェ」
「いいよな、ちきしょう」
「船の女はみんなお前に惚れてんじゃねェのか?」
「色男は辛いねェ〜」
「アホ言ってないでこれ運べ」
「へいへい」
「力仕事の後は疲れるっつーのに」
「癒してくれる女もいねェ」
「お前、何でフッちまうんだよ」
「勿体ねェよな」
「もしかして、アブノーマルか?」
「バカ言ってんな。オレは至ってノーマルだ」

ノーマルもノーマル。男なんかにゃ、興味ねェ。
オレだって、女の子に興味のあるお年頃だ。

『お前はいい女だぜ?でも、オレには必要ねェ』





「ねェ、エース」
「あ?何やってんだ、お前」
素肌にシーツを巻きつけた女。
「今夜、ここに泊まってもいい?」
部屋に、シーツ一枚の女。
「………………」
「いくらなんでも、裸の女は追い出せないわよね?」
悪知恵が回る。
「後悔はさせないから」
「後悔、ねェ」
笑って近づき、
「楽しみましょうよ」
「楽しむ?」
エースは、頬を撫でた。
「ふふっ」
「悪いな」
「え?」
「そんな気分じゃねェ」
「………恥、かかせる気?」
「テメェの恥より、」
オレの想いのが大事だ、言って、ドアに向かう。
「待ちなさいよ!エースっ」
「オレはそんな優しい男じゃねェ」
「は?」
「恥だの何だの、オレはその格好のテメェを追い出せる」
「何ですって?」
「そのくらい、何とも思わねェ」
だが今なら、オレが出て行くだけだと、小さく零して笑った。
「あたしが嫌い?」
「いいや」
「だったら、」
「抱けって?」
「………何であんたは、誰にも靡かないの?」
「靡いてるさ」
「嘘」
「靡いてる。今でも、一人だけに」
「え?」
「誰にも言うなよ。オレらしくねェって笑われちまう」
部屋は貸すから一眠りして戻れよと、その顔はどこか愁いを帯びている。
そして、小さくドアを開けて、部屋を出て行った。







「………んー‥」

疲れた首を回して、小気味良く骨を鳴らす。

空、夜、月。
君が好きだと言った時間。

もう二度と、一緒の空気を味わえない。







お前以外を、この手に抱こうとは、どうしても思えねェんだ。

 

 


『愛しき 人のまきてし しきたへの 我が手枕をまく人あらめや』
「愛しい君が枕にしたこの手を、再び枕にする人などいないだろう」
03/05/21  ×